なぜ雨の日にフィレオフィッシュが売れるのか?

“雨の日にフィレオフィッシュの売上が伸びる”という話、聞いたことありますか?

実はこれ、マクドナルドの店員のあいだではよく知られていて、テレビ番組などでもたびたび検証されている現象です。一部店舗では売上が通常の1.5〜2倍に跳ね上がることもあるのだとか。まるで都市伝説のようですが、実際に売上データにも表れている現象のようです。

ですが、この現象についてマクドナルドも明確な理由はわからないと公表しており、明確な答えは出ていません。一般的には、水から魚が連想されるからや、雨宿りで普段マクドナルドを利用しない層が流入し、売れ筋に変化がでるから、寒い日に揚げ物を求めるからといった説が語られています。もちろん、そうした要因も一因かもしれませんが、今回は、それだけでは説明しきれない選ばれる理由を、人の感情や心理の側面から掘り下げてみたいと思います。

まず、ユーザーの声に耳を傾けてみた

この現象の理由を探る手がかりとして、まず周囲の人に「フィレオフィッシュってどんなイメージ?」と聞いてみると、下記のような声があがりました。

  • 「肉以外の選択肢」
  • 「ヘルシー」
  • 「あっさりしたい」
  • 「ふわふわ」
  • 「2つめに頼む」
  • 「ざんしん」
  • 「地味」

こうした言葉を並べてみると、何気ない選択の背後にある、ちょっとした心理の動きが見えてきます。たとえば、「2つめに頼む」「あっさりしたい」といった声からは、メインを張るというより調整役として選ばれる存在であることがわかります。

また、「ふわふわ」「色が薄い」といった印象も、重くない・やさしい感覚を想起させます。さらに「地味」「四角」「ざんしん」というワードには、目立たないながらも他とは少し違う、フィレオフィッシュならではの個性が垣間見えます。

こうして人の声に耳を傾けることで、フィレオフィッシュが持つ、控えめですが独特なポジションが浮かび上がってきました。選ばれる理由は、味や素材だけではなく、その存在感のさじ加減にあるのかもしれません。

そもそも、なぜ魚バーガーが生まれたのか?

ハンバーガーといえば、ジューシーなパティが主役。なのに、なぜあえて魚を使ったバーガーが登場したのでしょうか。少し歴史をたどってみました。

フィレオフィッシュの開発者は、アメリカ・オハイオ州のフランチャイジーのルー・グルーン。彼の店舗の周辺にはカトリック信者が多く、金曜日は肉を食べないという宗教的な習慣から、来客数が大きく落ち込んでいたといいます。

この状況を打開するために考案されたのが、魚のフライを挟んだバーガーでした。発売当初は、パイナップルとチーズを挟んだフラ・バーガーとどちらを採用するか競わせたそうですが、結果としてフィレオフィッシュが採用されました。

つまり、フィレオフィッシュは当初から、誰かの事情に寄り添ったり、選択肢を与えるための、“調整メニュー”として誕生したのです。

フィレオフィッシュは“調整”の象徴

現代の私たちも、食の場面で日々さまざまな“調整”をしています。

たとえば、マクドナルドでバーガーを2つ頼むとき。ひとつはガッツリ系でしっかり食べたい。でももうひとつは、すこし軽めで罪悪感の少ないものにしたい。そんなときに自然と選ばれるのが、フィレオフィッシュだったりします。

「野菜では足りない。でもダブルチーズ2個はさすがに…」そんな矛盾のなかで、気を遣ってる感じを出せる、ちょうどいい着地点。それが、フィレオフィッシュの立ち位置なのです。

雨の日は、人をちょうどよく弱らせる

そして、雨の日。

雨に濡れる、空が暗い、気温が低い。そんな日には、気分が少し沈み、自分を少しだけ甘やかしたくなるものです。実際に、雨の日には高カロリーな食事を求めるという研究結果もあるようです。

でも、心が弱っている日に全力でジャンクフードを選ぶと後で後悔しそう。かといってヘルシーなメニューでは気持ちが満たされない…。

その微妙な感情を受け止めてくれるのがフィレオフィッシュ。ふわっとしたスチームバンズ、さっぱりしつつ程よく満足感のある白身魚、タルタルのコク。この組み合わせは、落ち込んだ心を優しく包み込んでくれるのです。

これは単なる味や食感の話ではありません。その日の自分にフィットする選択肢を、無意識に選んでいるということです。

フィレオフィッシュは、ごほうびほどの特別感でも、健康志向ほどのストイックさでもない。ただ、今日はちょっとだけ気分が上がらない、そんな日に、ちょうどよく寄り添ってくれる。それが、雨の日に選ばれる理由なのかもしれません。

ブランドのヒントは、ひとの声に宿る

今回、まわりの人に「フィレオフィッシュってどんなイメージ?」と聞いたことで、たくさんの気づきの種が見つかりました。

商品やブランドがどう見られているかは、企業側の意図だけでは決まりません。むしろ、ユーザー自身の小さな感情や矛盾、言語化されていない印象のなかに、本質的な価値が隠れていることも多いのです。

だからこそ、人の声に耳を傾けることは、ブランドを深く理解し、育てるための大きなヒントになります。

次に雨が降った日、自分の心がどんなものを求めているか、ちょっとだけ耳を傾けてみてください。ふわふわのあのバーガーが、きっと“ちょうどいい選択”として、あなたの心に寄り添ってくれるはずです。

参考
Wikipedia ルー・グルーン

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