視覚心理学から考える形の背後にあるもの

私たちは日常を、さまざまな形に囲まれながら過ごしています。街角の看板、手にするスマートフォン、さらには自然界の木々や花々まで、形は私たちの印象や感情に大きな影響を与えています。たとえば、円や曲線の形は安心感や柔らかさを感じさせ、鋭角や直線を用いた形は力強さを示します。

これらの形が私たちに与える印象の背後には、「視覚心理学」という学問があります。視覚心理学とは、人が視覚から得る情報をどのように処理し、それにもとづいてどのような印象や感情を持つのかを研究する学問です。視覚心理学を理解することで、私たちが日常で無意識のうちに感じていることの理由やメカニズムを知ることができます。

 

形からの印象とは?

形は私たちに強力な印象を与える力を持っています。たとえば、ロゴマークやWebサイトや、商品のパッケージデザインを見たときに、そのブランドや商品に対する好感度や信頼性を感じることがあります。このような直感的な印象は、形の形状や特性によって大きく左右されます。

特におもしろいのは、私たちが特定の形に対して共通の感情や印象を持つことです。たとえば、先に述べた円や曲線の形からうける感情は、円が持つなめらかさや優雅さが、人々の心に安定感や平和をもたらすからです。一方、鋭角や直線的な形からうける感情は、鋭角が持つするどさや突進感が、私たちの警戒本能を刺激するためです。

 

形からの印象は文化を超える

見てわかる視覚心理学| 大山 正 (著), 鷲見 成正 (著)」によると、複雑な形は動的で、簡単な形は静的で、規則的な形は良い印象をあたえ、不規則な形は悪い印象をあたえます。さらに、国ごとに比較した研究では、日本・台湾・韓国・アメリカ・オーストラリア・イタリア・ドイツ・セルビア・スロバキアの9地域の大学生に16の形を見せると、その印象は文化と言語を超えて非常に似ているという結果が得られました。

形による印象

たとえば、規則的な形からは「幸福」や「永遠」を、やや複雑で規則的な直線的な形からは「驚き」を、単純で比較的不規則な形からは「孤独」「創作」などを、不規則な多角形からは「怒り」「破壊」などを、やや複雑で不規則な直線的な形からは「不安」「恐れ」などを感じることが分かりました。

この研究結果からも分かるように、形には私たちの心に直接訴えかける力を持っており、言語、文化を超え日常生活のなかで無意識に私たちの感じる印象をつくっています。

 

なぜ私たちは特定の形に引き寄せられるのか?

私たちが特定の形に引き寄せられる背後には、生理的な要素と学習による要素の2つがあります。生理的な要素とは、私たちが生まれながらに持っている、特定の形に対する感じ方や反応のことです。たとえば、自然界での危険を避けるための本能として、鋭い角や突起を持つ形に警戒感を抱くことがあげられます。一方、学習による要素は、私たちの経験や文化にもとづいてつくられる感じ方や印象です。私たちが繰り返し接して学習した感じ方や価値観が、形に対する印象に影響を与えます。

ゲシュタルト心理学者ケーラー(1929)は、それぞれ意味を持たない曲線からなる形と、直線と鋭角からなる形を見せ、それらに「maluma」と「takete」という意味を持たない言葉を当てはめさせる実験を行いました。結果、多くの人は曲線型に「maluma」、直線型に「takete」を選びました。これは、丸い形が穏やかな印象を与え、角張った形が緊張感を起こすことを示しています。言葉の響きと形の印象には強い結びつきがあることがわかります。

形による印象2

このように、形に対する私たちの感じ方や印象は、生理的な要素と学習による要素が複雑に絡み合ってつくられています。そして、それぞれの経験が、私たちの形に対する印象を豊かにしています。

 

ブランディングにおける形の応用

ブランディングでは、ロゴマークやWebデザインの形状は、消費者の心に直接訴えかける強力なツールとして使用されます。たとえば、Appleの丸みのある単純でやや不規則な形状のロゴマークからは、ユーザーフレンドリーでアクセスしやすく創作的なブランドイメージを与えられ、一方、テスラのするどさと規則性があるロゴマークからは、先進性で高級なブランドイメージを与えていることが視覚心理学の観点からわかります。

Appleとテスラのロゴ

このように、ブランディングにおいて、視覚心理学の知見は非常に価値があります。ロゴマークの形が、消費者に与える印象を正確に把握することで、ターゲットとする消費者層に最も響くロゴマークをデザインすることができます。さらに、Webサイトのレイアウトにおいても、形の選び方や配置は、消費者のブランドに対する興味や購買意欲を効果的に高める要素として活用することもできます。また、形が与える印象は、言語や文化を超えることもあり、ブランドのグローバルでの展開にも応用ができます。

 

形と印象の不思議な関係

形と私たちがそこから感じる印象には深く不思議な関係があります。日常生活のなかで、私たちは意識的・無意識的にさまざまな形にふれ、それにもとづいて印象や感情がつくられています。ロゴマークやWebサイト、製品のデザインから、広告、さらには自然界に存在する形まで、私たちの心に与える影響は計り知れません。

視覚心理学を知ることで、私たちはこのような形と印象の関係をより深く理解することができます。この形と印象の関係の重要性は、ブランディングやデザインの分野だけでなく、日常生活のあらゆるポイントでの応用ができます。

 

参考図書:見てわかる視覚心理学| 大山 正 (著), 鷲見 成正 (著)

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