イタリアとフランスで学んだ五感で感じるブランド体験

私は昨年の秋、初めてイタリアとフランスを訪れました。ローマ、ヴェネツィア、ミラノ、パリを1週間ほどかけて巡ることができました。どの都市もそれぞれに魅力があって、毎日が新しい発見の連続でした。世界史で習った建築物を実際に目の前で見て圧倒されたり、街角のカフェで味わったクロワッサンや本場のエスプレッソに感動したり、名物料理を楽しんだりと、とにかく“楽しい!”がつまった旅でした。

日本に帰国してあらためて感じたのは、建物の迫力や料理のおいしさだけじゃなくて、街の匂いや音、人の話し声、足元の石畳の感触など、いろんな感覚がセットになって記憶に残っているということでした。

そのヒントは“五感”にあると考えました。私たちは、目にするもの、香り、音、味、触れる感覚を通して、無意識のうちに感情を動かされ、記憶をつくっています。この記事では、旅先での五感の体験を振り返りながら、ブランドづくりに活かせるヒントを探っていきたいと思います。

1.視覚:一瞬で心を奪う「構造」と「色彩設計」

旅の中でも特に楽しみにしていたのが、ローマのコロッセオでした。朝5時、まだ日が昇る前に現地に着き、静まり返った街の中でコロッセオの姿を目にしたとき、その大きさと存在感に圧倒されました。対称に積み上げられた石、重厚なアーチ、そして薄明かりの空とのコントラストなどその場に立っているだけで、「今、自分はここにいるんだ」という実感がじわじわと込み上げてきました。気づけば2時間以上、ただ眺めているだけでも飽きずに過ごしていました。

一方、パリの街並みはまた異なる印象でした。建物の高さ、色調、素材感までもが調和していて、どこを歩いても落ち着いた雰囲気が広がっていました。カフェの外観や看板、街路樹に至るまで統一されたデザインが、街全体に一貫した世界観を与えているように感じました。

視覚は、感情に直接作用する感覚です。驚きや高揚感、安心感といった感情は、まず“目に入るもの”によって方向づけられることが多く、印象にも強く残ります。

2.嗅覚:香りが“ブランドの記憶”をつくる

パリでは、バターの風味が豊かで、外はパリッと、中はしっとりとした本場のクロワッサンを毎朝食べようと決めていました。フランスの朝食を代表するようなこのパンを求めて、街を歩いていると、甘く香ばしい香りがふわっと漂ってきます。バターと砂糖が焼ける匂いに包まれるたび、自然と足取りが軽くなっていきました。

嗅覚は、五感の中でも記憶との結びつきが特に強い感覚です。香りは脳の本能的な部分に直接届き、「懐かしさ」や「心地よさ」といった感情を呼び起こします。だからこそ、香りは“その場の空気”ごと記憶に残ります。

3. 聴覚:音が空間を“心地よくする”

ヴェネツィアでは、移動に水上バスや水上タクシーをよく使い、すぐそばに水面があり波の音がいつも聞こえていました。ほかの都市とは違い、思い出すと真っ先にこの波の音が浮かびます。

音はその場の空気やテンポをつくる要素です。静かで落ち着いた音があると、過ごし方も自然とゆるやかになります。

4. 触覚:素材や手触りが記憶に残る

ローマの街を歩くと、古くて不規則な石畳の感触が足裏に伝わってきます。硬くてごつごつした石の上を歩くと、日本の整えられた道とは異なり、長い歴史やたくさんの人の暮らしを感じるようでした。歩きにくさもありますが、その不揃いな石畳こそがローマらしい重みを伝えているように思えました。

5.味覚:食べることで記憶に残る体験

イタリアではヴェネツィアでイカスミパスタや海鮮パスタを味わい、濃厚な海の風味が口いっぱいに広がりました。ミラノでは濃いエスプレッソやパスタ、そしてティラミスなど、地域ごとに特色ある料理を楽しみました。パリでは朝のクロワッサンや名物のエスカルゴを味わい、その土地の文化を五感で感じることができました。

味の深さや独特の風味は心に残り、体験そのものを強く印象づけます。

まとめ

視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚など旅を通して感じた五感の体験は、今でも鮮明に思い出せるほど印象的でした。ローマの石畳を歩いた足裏の感覚、ヴェネツィアの静かな波の音、パリの街角で漂ってきたクロワッサンの香り、そしてそれぞれの土地の味。そのひとつひとつが感情を動かし、記憶として深く残っていることを実感しています。

こうした体験を振り返ると、人の記憶に残る瞬間には必ず「五感を通じた感動」があるのだと改めて感じました。そしてそれは、ブランドづくりにも通じるヒントではないでしょうか。美しさや心地よさ、おいしさやぬくもりをどう届けるか。五感を意識した体験設計が、人の心に残るブランドをつくる大きな鍵になると思います。

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