「逆行こそ最先端」昭和レトロに学ぶZ世代マーケティングのヒント
昭和レトロの“逆襲”
カラフルな純喫茶、アナログなフィルムカメラ、懐かしいパッケージのお菓子や家具。そんな「昭和レトロ」が、今Z世代の間でブームになっています。「古くてダサい」どころか、「エモくてかわいい」「むしろ新しい」と再評価されているのです。
でも、なぜ今、昭和レトロなのでしょうか。
体験したことのない“新しい世界”へのときめき
Z世代にとって、昭和は実際に体験していない遠い時代。だからこそ、そこにある色や音、質感、空気感すべてが未知であり、「こんな世界があったんだ!」という発見の喜びにつながります。いわば、昭和は新しいトレンドとして受け止められているのです。
これはブランド戦略でいうと、新しさの再解釈。古い価値を、違う文脈で提示することで、全く新しい価値が生まれるという手法です。
「エモい」は最強の感情ワード
フィルムの粒子、色褪せた看板、昭和歌謡のメロディ。これらが呼び起こすのは、単なる懐かしさではありません。説明できない感情の混ざり合い、それが「エモい」という感覚です。
「エモい」は英語の“Emotional”を語源としながらも、ただ感情が大きく揺さぶられるというよりは、懐かしさ、切なさ、趣きといった複数の感情が静かに重なり合う、穏やかな情緒を指すことが多いように思います。
感動のなかでも、静かな感動といったところでしょうか。Z世代が多様性を大切にしているように、エモいの中に正解はなく、喜びや寂しさ、やさしさや哀愁、混じり合うそれぞれの感情すべてを許してくれるような“余白”のある言葉です。
言語化を試みるほどに、「言葉にできないからこそ“エモい”なのでは」という気もしてきます。それもまた、Z世代の美意識らしいと思わされる瞬間です。
ブランドが「エモさ」を武器にするには、ただレトロ風にすればいいわけではなく、ユーザーに自身の感情を投影させる“余白”を持たせることが重要です。昭和レトロは、その“余白”の宝庫と言えます。
疲れた心に「昭和」の癒し
日々スマホに追われ、SNSで比較される今の若者にとって、昭和の世界は「遅くて不便だけど、だからこそ温かい」という対照的な存在。
このスローで丁寧な世界観が、現代におけるデジタルデトックス的ブランディングと呼べるかもしれません。たとえば、昔ながらの純喫茶やレコード店がZ世代にウケているのは、「心が休まる」空間として認識されているからです。
自己表現のための“素材”としての昭和
そして何より重要なのが、昭和レトロがSNS映えするという点です。Z世代は、ファッションやライフスタイルで自分らしさを発信したいと考えています。レトロな雑貨やコーディネート、喫茶店の内装は、「個性的でセンスの良い自分」を演出する最高の素材。
Z世代は昭和レトロを、自分を表現するための素材として使いこなしています。ブランドにとって重要なのは、そうした素材として選ばれること。「映える」と感じる要素や、発信したくなる物語性を設計することで、自然とシェアされ、共感が広がっていくのです。
ブランドの逆説的戦略に学ぶこと
「最先端であること」だけがブランドの強みではなく、時代の感性に応じてあえて逆行することが、むしろ差別化の鍵になる。つまり、レトロブームは単なる懐古ではなく、「今を生きる人に響く新しさ」を再定義するブランド戦略のひとつなのです。
昭和レトロがZ世代に突き刺さっているのは、「それがレトロだから」ではありません。そこに共感できる感情や、自分らしさを託せる“余白”があるからです。
現代のブランドが目指すべきは、“らしさ”の強調ではなく、“らしさ”を誰かが見つけて育てたくなるような設計にすること。そのためには、ブランドの核を改めて問い直し、あえて少し立ち止まり、過去や記憶、感性に目を向けることも必要かもしれません。
「若い世代に、どう響かせるか」
「ブランドの“らしさ”を、どう今の空気感にのせていくか」
そんな問いを抱えたとき、立ち止まって逆行してみるのも、一つの方法かもしれません。私たちブランコも、そうした視点からブランドづくりを日々探求しています。
この記事が、何かひとつでもみなさんのヒントになっていると嬉しいです。ブランドづくりに迷ったときは、いつでもご相談ください。