戦略のないブランディングはなぜ失敗するのか?

日常生活で目にしたり耳にしたりするさまざまなブランド。それらがブランドとして定着し、多くの人に親しまれるようになるまでにどのような流れがあったのか、皆さんは考えたことはありますか。

ブランドが確立されるまでには、多くの人の協力と日々の努力、そしてその方向性を示す「戦略」が欠かせません。ブランディングは短期間で形になるものではなく、長い時間をかけて構築していくものです。今回は、なぜブランディングに戦略が必要なのか、その理由を事例を交えてお話します。

戦略とは

そもそも「戦略」とはどのような意味を持つのでしょうか。

戦略は特定の目的達成のために、総合的な調整を通じて力と資源を効果的に運用する技術・理論である。ただし戦略の定義は時代・地域・分野によってその意味は異なる。戦略はもともと戦争術から戦術と併せて分化した概念であり、軍事学の専門用語であった。
引用元:戦略 – Wikipedia

このように、戦略は元来軍事用語でしたが、やがて軍事以外の分野でも使われるようになりました。現在では、ビジネスや教育、政治、さらには個人の目標設定など、さまざまな場面で広く活用されています。

たとえばビジネスにおいて、戦略は限られたリソース(人材、資金、時間など)を最大限に活用し、競争の中で優位性を確立するために欠かせない考え方です。経営戦略やマーケティング戦略といった言葉が一般的に使われているのも、この広がりを示しています。

ブランド戦略とは

ブランド戦略とは、特定のブランドが市場で成功を収めるために、価値を創造し、それを消費者に伝えるための計画のことを言います。製品やサービスそのものだけでなく、企業全体のビジョン、価値観、コミュニケーション方法を含む、ブランドに関わるあらゆる要素を考慮して立案されます。

ブランドは単なる名前やロゴマークではありません。顧客にとっての「体験」や「約束」をも意味し、消費者がそのブランドをどう感じ、どのように評価するかを左右するものです。そのためブランド戦略は、製品の魅力を伝えるためだけでなく、顧客との長期的な信頼関係を築くための設計図でもあります。

戦略が足りずに失敗してしまったブランド

普段皆さんが目にしているブランドは、ブランディングを成功させたものばかりです。なぜなら、失敗したブランドは消費者の記憶にも市場にも残ることなく、姿を消してしまうからです。

しかし、成功したブランドの裏側には、多くの試行錯誤や挑戦が存在します。そのなかには、戦略不足が原因で惜しくも失敗に終わった例も少なくありません。ここでは、その例をいくつかご紹介します。

ローソンのプライベートブランド パッケージ変更 – 狭い視野が招いた失敗

ローソンは2020年にプライベートブランドのパッケージを新しくしました。従来のデザインは、商品の写真を全面に見せた視認性の高いものでしたが、新しいパッケージは白を基調としたシンプルで統一感のあるデザインでした。これは、ローソンが女性から支持を得ている点に着目し、競合との差別化を強化する狙いがありました。しかし、結果は期待とは逆のものとなりました。

消費者からは「商品の中身が見えづらい」との不満が寄せられ、店舗スタッフからも「どの商品をどこに陳列すればいいのかわかりづらい」といった声もあがりました。コンビニという不特定多数の利用者をターゲットとする業態であるにもかかわらず、一部の消費者層に偏ったデザインにしてしまったことが、失敗の一因といえる事例です。

Gapのロゴマーク変更 – 顧客を無視した決断

2010年、アメリカのアパレルブランドGapは、長年親しまれていたロゴマークを突然変更しました。従来の「青いボックスの中に白文字でGap」と書かれたロゴマークは、顧客に安心感と信頼感を与えていましたが、新しいロゴマークはモダンなフォントに単調なデザインというものでした。変更後、顧客の強い反発を受け、わずか1週間で旧ロゴマークに戻す事態となりました。

Gapの失敗の原因は、顧客の声を無視し、戦略的な計画なしに変更を行ったことにあります。新しいロゴマークがどのように受け入れられるかを事前に調査していなかっただけでなく、変更の理由をしっかりと顧客に説明するプロセスも欠けていたため、混乱を招いたのです。

inゼリーのパッケージ変更 – 「洗練されたデザイン」が生んだ混乱

inゼリーは、栄養補給食品として人気のブランドですが、過去にパッケージ変更で予期せぬ混乱を招きました。以前のパッケージは、エネルギー補給やビタミン摂取、プロテイン補給といった機能性がひと目でわかるデザインで、実用性を重視していました。ところが、変更後はカロリー別のラインナップに切り替え、パッケージデザインも英字を用いた洗練されたものへと変更されました。

この変更により、消費者がinゼリーの商品であるとすぐに認識できなくなり、売上にも悪影響を及ぼしました。この失敗は、消費者がブランドに対して期待している価値を見誤ったことが主な要因といえます。洗練されたデザインも、消費者心理やブランド認知を無視しては逆効果となることを示した例です。

トロピカーナのパッケージデザイン – 認知度の喪失

2008年、トロピカーナは主力商品のパッケージデザインを刷新。従来の「オレンジに刺さったストロー」というデザインから、オレンジジュースの写真を用いたシンプルなデザインに変更しました。しかし、消費者は新しいデザインを見て「トロピカーナだと気付かない」という混乱を起こし、売上は20%も減少しました。

この失敗は、消費者に強く認識されていたブランド資産を軽視したことが原因です。既存パッケージの「オレンジに刺さったストロー」は、消費者に強く認識されていたブランド資産でした。これを変更したことで、消費者が商品を見つけられなくなってしまったようです。

SONYの「QUALIA」 – 市場ニーズと乖離した高級戦略

SONYは2003年に高級ブランド「QUALIA」を立ち上げ、価格が100万円以上の商品も展開。しかし、市場での反応は芳しくなく、わずか2年で販売終了となりました。

引用元:QUALIA

SONYは「手頃な価格で高品質な製品を提供する企業」として認知されており、「QUALIA」のような高価格帯ブランドは受け入れられなかったようです。ただ、高級ブランド市場の需要を的確に捉え、そのニーズとSONYが持つ技術力を活かした独自のポジショニングを構築できていれば、結果は違っていたかもしれません。

ブランド戦略のむずかしさ

どの失敗例も、意図的に失敗を招いたわけではありません。むしろ、どの企業も成功を目指してさまざまな試みを行っている中でのできごとです。それでも失敗に至ったのは、戦略立案がどれだけむずかしいかを物語っています。

戦略を立てることは、単なる計画づくりではありません。市場分析、競合調査、顧客ニーズの把握、企業の内部リソースなどの膨大な情報を分析し、仮説を立て、それを実行できるかたちに落とし込む必要があります。さらに、戦略は未来を見越して計画を立てるものであるため、必然的に不確実性が伴います。それが市場の動向や顧客のニーズに適合しているかを常に確認し、柔軟に修正する力も求められます。

だからこそ、戦略立案は価値がある

戦略を立てることは決して簡単ではありません。ですが、だからこそ、しっかりとした戦略をつくりあげることができれば、ブランディングの成功率を高めることができます。戦略立案を軽視してしまうと、時間やリソースを無駄にするだけでなく、ブランドそのものを危機にさらす可能性すらあります。

慎重に戦略を練り、それを着実に進めていくことで、たとえ市場の不確実性があっても柔軟に対応し、成功への道筋を切り拓くことができます。私たちとともに、ブランドの未来を形づくる第一歩を踏み出しませんか。

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