表現し続ける「小林賢太郎」の独自の世界観

お笑いコンビ「ラーメンズ」として、劇作家、パフォーミングアーティストとして幅広く活躍し続けている小林賢太郎さん。

1月21日(木)〜3月13日(日)の期間、福岡・天神イムズ内にある三菱地所アルティアムにて「小林賢太郎がコントや演劇のためにつくった美術 展」を開催中です。

常識という概念に縛られない、想像の斜め上をいく独自の世界観がどのようにして生み出されているのか、お話を伺いました。

美術もお笑いも同じ“パフォーマンス”

―小林賢太郎さんといえば、お笑いコンビ「ラーメンズ」のひとりとして認識されている方も多いと思うのですが、美術系の大学に進学しながらも在学中にお笑いに打ち込まれたきっかけは何だったのでしょうか?

小林 中学の時にクラス演劇の脚本を書いたり、高校の時に演劇部に在籍していたりと、そういったパフォーマンスにまつわることが昔から好きだったんです。

美術大学に入学した時点では、卒業後にデザインや広告といった世界に進もうと思っていて、オチ研(落語研究会)に入ってお笑いは趣味でやろうと思っていました。

ところが、美術と趣味のお笑いが、大学の4年間をかけてちょっとずつ比重が入れ替わってしまったんですね。(笑)

しかしその比重が変わったことで方向転換をした、という感覚が自分の中で全然なかったんです。たまたま表現する手段が絵筆から自分の体に変わったというような感覚ですね。

『記憶の庭』(2014) W:427mm×H:302mm  イラストレーションボード/マーカー

『記憶の庭』(2014) W:427mm×H:302mm イラストレーションボード/マーカー

美術もお笑いも、どちらも僕にとってはパフォーマンスでありプレゼンテーションなんです。自分がつくったものでそれを見た人を楽しませる、という言い方をするならば、どちらも同じ職業になる。その感覚で、何の違和感もなくそうなっていきました。

ただ一方で、お笑いに“絵が得意である”ということを持ち込んでしまうと、面白くないコントを美しい絵画でカバーしてしまっては全然成長できないと思い、敢えて絵が得意であることを隠していたこともありました。

今ではその境界線がなくなり、ふたつが重なりあって“小林賢太郎”という仕事になっているので、納得しながら向き合っています。

“そのまま”を伝えたい

―舞台を活動の中心に据えられてから長く経っていますが、舞台の魅力とはなんでしょうか?

小林 かつてテレビ番組に随分出演してきましたが、どれひとつとっても「これは僕の作品です」と自分のサインを描けるものがなかったんです。

例えば、ある番組のワンコーナーを任せてもらって、僕が脚本をやって片桐仁という俳優と共にラーメンズという単位で出演していたのですが、オンエアーを見たら、僕が言ったことがテロップ化されていたり笑い声が乗せられていたり、僕が思ってた意図ではない編集がなされていることがよくありました。

僕は芸能人になりたかったわけではなくアーティストですので、「これは私のお仕事です。この作品に私はサインを描きます。」といえる作品をつくろうとした時に、それが可能だったのが舞台でした。

引用元:Potsunen 公式サイト

引用元:Potsunen 公式サイト

舞台は編集が無く、いまここで起こっていることがそのままお客さんが見ていることなので、僕の伝えたいことをそのまま伝えることができるんです。

「お笑いなのになぜテレビに出ないんですか?」と聞かれることがよくあるのですが、それは「プロ野球選手なのになんでJリーグに出ないんですか?」という質問に限りなく近いんです。

僕は舞台の専門家なので、自然な流れでステージという職業に就き、だから他の職業はやっていないというぐらいのものですね。

ただ面白がっておく

『THEATER P』(2013)  W:610mm×H:910mm 木製パネル/アクリル絵具

『THEATER P』(2013) W:610mm×H:910mm 木製パネル/アクリル絵具

―どの作品や舞台を拝見しても、小林さん独特の世界ができ上がっているのを感じるんですが、その自由なアイディアはどこから生まれるんでしょうか?

小林 アイディアが天から舞い降りてきてひらめくということは、これまで1回もないです。僕にとってアイディアはほじくりだすようなものというか、日々の積み重ねの中にあるものだと思っています。

例えば、福岡に到着した日はすごく雪が降っていて、乾いた感じの雪が僕の濃い色のコートの上に綺麗に乗っていたんです。タクシーに乗ってもその雪がまだ溶けずに残っているので、なんとなく「揚げ玉みたいだ」って言ったんです。そしたら運転手さんが「うどんに入れますか?」って。(笑)

僕は頭のなかで「冷めるじゃん」と思ったんですが、この人は1回返したらずっとしゃべるタイプの人だなと思って返しませんでした。(笑)

これは僕にとって、人に話したくなるほど楽しかったエピソードなんですが、別に探し求めてたわけではないんですよね。

会話劇のヒントはいくらでも普通の生活の中に転がっているので、それをひとつ残らずメモをしていくということではなく、ただ面白がっておくということがすごく重要だと思っています。

新しいものをつくりだそうとする時に、面白がったり楽しんだ蓄積がどれだけあるかが、アイディアの種をアイディアと呼べる段階まで持っていくために必要だと思います。

そのアイディアをいかに形にするかは、毎回ものすごく苦しみますが、答えが出なかったことは1回もないです。苦しむけれど、必ず答えにたどりきます。

アニメーション監督に初挑戦

引用元:あにめたまご2016 公式サイト

引用元:あにめたまご2016 公式サイト

―今年公開予定のアニメーションの監督・脚本を担当されたということですが、初めてのアニメーション監督はいかがでしたか?

小林 監督とは名ばかりで、僕だけ新人という環境でやっていたので、ずっと社会科見学をしている気分でした。

周りはプロデューサーをはじめ、演出の方、音楽の方などアニメーションをたくさん経験されている方ばかりだったので、みなさんに本当に色々なことを教えて頂きました。

ただ一方で、アニメーションについて何も知らないが故に出てくる、その表現の難しさを知らずにいう僕のアイディアを面白がって頂けたのでありがたかったです。

今回監督を担当させて頂いたのは「カラフル忍者いろまき」という映画なんですが、アニメーションにすごく詳しい人が観たら、「おや、珍しい」と感じる表現が入ってるかもしれませんね。

―アニメーション監督を経験したことで一番得たことはなんですか?

小林 未体験の分野に触れて、とても勉強になるし舞台での活動に対して客観的になりました。

短い期間ですが、僕は以前海外に住んでいたことがあり、その期間は本当に日本のことを客観的に見ることができました。

それと同じように、アニメーション映画の現場から舞台のことを思うと、これまで見れなかった見え方が発見できたりするんです。越境したことによる客観性みたいなものは得たものだと思います。

―隣の芝は青いけど、隣の芝に立ってみると自分の芝も結構青かったということに気付く、ということですよね。

小林 まさにそうです。それ僕が言ったことにしておいてください。(笑)

生の手仕事を感じる

―今回の展示は、以前に東京・青山のスパイラルにて行われた小林さんの初の展覧会の巡回展ということですが、本展のコンセプトを教えて頂けますでしょうか。

小林 僕は自分の作品において、脚本・演出・出演はもちろん舞台芸術や小道具の制作も自ら行なっています。

どんなに時間をかけてこしらえてた美術も、ステージやテレビで使用されるのはほんの数秒間です。

この展覧会では、実際に使用されたイラストや小道具などを間近でじっくりご覧頂けます。

『十鬼夜行』(2012) W:3150mm×H:1100mm  屏風/アクリル絵具・墨 

『十鬼夜行』(2012) W:3150mm×H:1100mm 屏風/アクリル絵具・墨

近くで実物を見ると、筆跡や失敗の跡など手仕事の形跡が生々しく見えてくるので、それをたくさんの方に感じていただけたらと思っています。

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普段実際に使用している画材や、アトリエの壁に貼ってあったメモなどをそのまま持ってきたアトリエを再現したコーナーや、ステージ衣装を展示する楽屋コーナーも設けてあります。

また、本展は何回でも再入場が可能で、約2ヶ月という長い期間開催されるので、来るたびに何か違うお土産を持って帰れる方法はないかと考えて、ギャラリーの入口におみくじを設置しました。

また、新しいオリジナルグッズを途中で追加して、グッズコーナーの更新もしています。

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おみくじは全部で8種類あるので、是非コンプリートして欲しいですね。

やれるときにやれることを

―今後挑戦してみたいことはありますか。

小林 特に決めていないです。アニメーション監督もやりたいと思ってやったわけではなく、お声かけ頂いてじゃあやってみようかとなったので。

職業が舞台作家ですから、今後も当たり前のように舞台に立ち続けると思うんですが、そんな中で時々映画やテレビ、展覧会、出版といった出来ることの可能性はいろいろあると思いますので、やれるときにやれることをやってみようと思っています。

でも僕は舞台から降りないですよ、劇場にいます。

―カッコイイですね…!

小林 僕カッコイイんですよ!笑

―是非一度舞台におじゃまさせて頂きます。本日はありがとうございました!

ひとつひとつの質問に対しても、自分の中で納得のいく答えを探してから答えられていたのが印象的だった小林さん。

どこまでも妥協をせず、自分の感情や表現したいことに真正面から向き合っている方なのだなと強く感じました。

妥協をせず丁寧にこしらえられた生の手仕事の数々を、この機会にぜひご覧ください。