「篠山紀信展 写真力」で感じる“本物”の写真の力
私は普段から、空気や勘を研ぎ澄ませたような写真や写真家という存在に惹かれ、写真家の方のインタビューを読んだり写真展に足を運んでいます。
雑誌で見ていた写真を写真展で目の当たりにした時に、写真の持つ力に驚き、なるべく“本物”を観に行こうと感じた経験がきっかけです。
現在、福岡アジア美術館にて、2月12日(日)まで開催されている「篠山紀信展 写真力 THE PEOPLE by KISHIN」にも早速伺ってきました。
公開初日に行われた篠山 紀信さんのトークイベントにも参加してきたので、写真展の様子と併せてレポートします。
75万人を超える動員数
篠山さんは、言わずと知れた日本を代表する写真家のひとりです。50年以上に渡り、時代を象徴するスターや出来事を撮り続けています。
「篠山紀信展 写真力」は、2012年6月に行われた熊本での展示を皮切りに、これまで日本全国25会場で開催され、75万人超を動員してきました。
本展では、時代を象徴するスターの写真を中心に、東日本大震災から50日後に現地で撮った写真に加え、福岡での展示に合わせて、福岡にゆかりのある著名人の写真などが5つの章に分かれて展示されています。
篠山さんは、美術館の展覧会は額に入れて偉そうに飾るから嫌いと公言していたので、これまで写真展を行っていなかったそうです。
美術館という非日常の空間の力と、写真そのものの巨大な力との戦いが今回の写真展の大きなテーマ。
写真で1番強いものといえば人間の写真だと思い、時代の記号になっているような超有名な人の写真なら、見る人にその当時の記憶を喚起させるのではないかということで、今回のような展示構成になったそうです。
会場に入ると、写真の圧倒的な存在感に、ただただ驚きました。写真から放たれるエネルギーやみなぎる力、神々しい美しさに心が動かされ、周りの入場者の方も思わず声をあげていました。
それぞれの写真にはタイトルや説明は掲示されていませんでしたが、言葉はいらないように感じました。
“時代”を撮る
トークイベントでは、展示されている100点以上の作品の中から、20点ほどの作品について、撮影手法や裏話などのエピソードをお話されていました。
“時代”に合わせて手法を変え、時代の最前線を切り取るため、撮影にはいつも最新のデジカメを使用しているそうです。
例えば、バブル真っ只中の80年代にはトリッキーな手法が合うと考え、複数のカメラを並べて同時に撮影し、1枚の写真のように合成する“シノラマ”と言われる方法を考案し、撮影を行ったそうです。
「写真を撮る時間は短い。こういうのが撮りたいと思ったら電光石火のように撮っている。」とお話されていたのがとても印象的でした。
芸術写真家から芸能写真家へ
篠山さんが“芸能写真家”となったのには転機があったと、本展の写真集に掲載のインタビューにて語られていました。
31歳の頃にリオのカーニバルの取材をした際、被写体の持つ圧倒的な存在感に感銘を受けたそうです。
それまでは芸術的な写真を撮影していたものの、そのリオでの取材をきっかけに、写真家が「世界は自分のもの」と思って主体性を持って撮ることに疑問を感じ、「世の中で起こっていることをすべて受け入れよう」と考え方が変わり、“芸術写真家”から“芸能写真家”になったのだとか。
初期のような芸術写真を今も撮り続けていたら、どんな写真を撮っていたのだろう…と思いつつも、変化していく時代の一瞬の輝きを掴み取る直感と、篠山さんにしか撮れない「時代を超える写真」を撮っていることが、結果的に“芸術写真”になっているようにも思います。
被写体の魅力に吸い込まれる写真展
篠山さんに撮ってもらうとなると、女優さんなどの被写体側も、最高の美が映るようにと入念な準備をして撮影に臨まれるそうです。そして篠山さんは被写体の最高の表情や空気感を引き出します。
そんな篠山さんにしか撮れないような、一流と一流の真剣なぶつかり合いから生まれる強い写真には、その時々の旬な食材を最高の調理法でいただいた時のような感動があります。
篠山さんの写真は意図のような「我」を感じさせず、被写体の魅力を最大限に引き出していて、思わず吸い込まれてしまいそうになりました。「本物は時代を超える」といいますが、まさにそれを感じた写真展でした。
今回の展示をするにあたり、篠山さんは「写真展の空間の中に身をおいて体感してほしい、浸ってほしい」とおっしゃっていましたが、また改めて時間をつくり、ゆっくり“浸り”に行きたいと思います。
篠山紀信展 写真力THE PEOPLE by KISHIN
福岡アジア美術館
福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル 7F
2016.12.18(日)-2017.2.12(日) ※毎週水曜、12.26(月)-1月1日(日)は休館
10:00-20:00(入場は閉場30分前まで ※最終日は18:00閉場)
一般 1100円、高大生 900円、小中生 500円 未就学児無料
※最終日を除き、18:00以降入館者は一律500円(ナイトミュージアム割)