WIRED編集長若林さんが語る、これからのテクノロジーとの向き合い方@FITS 2016
12月16日(金)に、福岡・天神のエルガーラホールにて開催された、福岡情報技術サミット「FITS 2016」に参加してきました。
イベント全体の今年のテーマは、「テクノロジー世界の歩き方」。
これまでのFITSは参加対象者をテクノロジーを“つくる側”に絞り、どうテクノロジーと向き合うのか、これからテクノロジーはどうなっていくのかという内容で開催されてきました。
3回目の開催となる今年は、テクノロジーが人々の生活にとって当たり前の存在となったことをふまえ、テクノロジーを“つくる側”だけでなく“使う側”にも対象を広げ、テクノロジーとどう付き合っていくべきかについて広く考えるイベントとなりました。
その中でも、いま私たちが考えなければいけないことについての問題提起が行われた、WIRED日本版編集長 若林 恵さんによる基調講演、「これから先、人が創るもの、テクノロジーが創るもの~わたしたちはテクノロジーとどう向き合うべきか~」について、一部抜粋してレポートします。
「市場≠社会」
テクノロジーが広く浸透してきた昨今、さまざまな新しい価値が生まれ、人とものとの関わり方も大きく変化してきました。例えば、車ひとつとってみても、“所有するもの”から“シェアするもの”に変わってきています。
WIREDは、テクノロジーという視点から私たちの「あるべき未来像」を世に問うメディアです。その特性上、企業のコンサルティングにまつわる依頼も多く、WIREDのコンサルティグ事業部を立ち上げたほどだそうです。
多くの企業と話をする上で見えてきた、いまの日本の抱える課題のひとつとして若林さんが挙げていたのは「市場原理主義」、「数字・売上至上主義」。
デジタルテクノロジーは合理的で正確なものなので、市場原理ととても相性が良く、数字に強い根拠を与えます。しかし、「市場=社会」ではありません。
例えば親、子育てなど、社会において重要な部分を占めながら市場化されていない価値はいくらでもありますが、数字や効率化ばかりを重視することで、市場に表れない価値を“無いもの”にしてしまっているという現状があります。
「それはある種の“貧しさ”の表れなんじゃないか」と、若林さんはおっしゃっていました。
市場原理や数字ばかりを重視しているひとつの例として、Web業界で大きな話題となった、DeNA問題にも言及。
メディアは原理的に考えるとクライアントがいないお仕事。「伝えたい」という気持ちが根本にあり、記事を読んでもらい何かを考えるきっかけになる、ということが目的です。
本来全然違う軸で動くはずの広告とメディアを同じものとして扱い、広告ビジネスとしてのメディアが乱立することで、PVを稼ぎそうな焼き直しの記事ばかりが溢れ、情報に多様性がなくなり、情報の質や価値が下がる、という自体を引き起こしてしまっている、と若林さんは指摘します。
教養・哲学という“人間らしさ”
若林さんがテクノロジーに携わる人たちと話す際、去年頃からよく話題にのぼるのは「テクノロジーが何に対して奉仕しているのかということを、もう1度ちゃんと考えないといけない」ということ。
いまは市場原理だけを拠り所にしている構成になってしまっているけれど、そうではなく、「人文科学や社会学のような“教養”、もしくは“哲学”をちゃんと学ばないといけないのではないか」と、若林さんは考えられているそうです。
例えば自律走行車が走っている際、まっ直ぐ走ると運転している自分が死に、ハンドルを切ると誰かが死んでしまう状況では、どんな判断をするプログラムを搭載するべきか、という“トロッコ問題”。2017年にアメリカで決定が下される、自分で判断しターゲットを攻撃する自律型ロボットを戦場に出していいかどうかという問題。
テクノロジーがどんどん進化し身近になるにつれ、そういった市場のニーズや多数決では決めきれない難しい問題にも、しっかり向きあっていかないといけないシビアな時代になってきている、と若林さんは言います。
教養や哲学…それはつまり、“人間らしさ”ということなのかな、と若林さんのお話を聞いて感じました。
“考える力”を鍛える
辛辣なコメントとユーモアを挟みながら、リラックスした様子で語られるこれからの“未来像”に、会場の誰もが聴き入ってしまった若林さんのセッション。
テクノロジーが一般化することで広がる“便利でワクワクする未来”。どうしてもそんなイメージが先行してしまいがちですが、根本に立ち返り、私たちはどこに価値を置き何を軸としていくべきか、しっかりと見つめ直さないといけない段階にある、というお話に身の引き締まる思いでした。
これからめまぐるしいスピードでテクノロジーは進化し続けていきます。私たちはその変化をどのように受け入れ、対応していくのでしょうか。
個人として、企業として、どこに価値を置き、どういうロジックで、どんな選択をするのか。しっかりとした軸を持ち、自分で考え判断する力を鍛えていきたいですね。