映画「ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人」でアートの楽しさに触れる
“アート”というと少し敷居が高く高額なもので、そんなアートを収集する“アートコレクター”というと、お金持ちなイメージを持つ方が多いと思います。
しかし、アメリカの国立美術館「ナショナル・ギャラリー」に2000点以上のアートコレクションを寄贈したのは、つつましく暮らす2人の老夫婦、という驚きの事実をご存知でしょうか。
2つのルール
その老夫婦の話は、『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』というドキュメンタリー映画にもなりました。
郵便局員の夫ハーブと、図書館の司書の妻ドロシー、という普通の所得の2人が、約30年にもわたり集めてきた数々のアート作品は、60〜70年代におけるNYのアートシーンを凝縮したものでした。
2人のコレクションにおけるルールは至ってシンプル。
自分たちのお給料で買える値段であること、1LDKのアパートに収まるサイズであること、という2つのみ。
ドロシーのお給料は生活費に、ハーブのお給料はすべてアートにつぎ込んでいたそうです。
2人は昼夜関係なく、毎日のようにギャラリーやアーティストのアトリエに足を運び、若いアーティストの作品を中心に集め、いつしか2人は「大コレクター ヴォーゲル夫妻」としてアート界で有名人になりました。
“見る目”を持ったフレンドコレクター
2人と親交のあるアーティストの一人、ジョン・パオレッティはこう言っています。
「2人のコレクションの特徴は、アーティストの思考過程をこっそりのぞいているような親密感があること。」
2人は他のコレクターと違い、すべての作品を見たがり、アーティストたちとの親交を深める中で、作品だけでなく、その作品が生まれるまでのアーティストの成長や、作風の変化まで楽しんでいるようでした。
別のアーティスト、リチャード・タトルはこう言っています。
「我々の多くは見てるようで何も見てない。だが、ハーブとドロシーのように“見る目”のある人もいる。見たことが目から直接魂に届くんだ。脳を通らずにね。」
アートへの純粋な気持ち
作品に意味は求めず、視覚的に気に入るかどうか、好きかどうかで選ぶという、アートに対する純粋な気持ちのみで集められた2000点を超えるコレクションは、1点たりとも売ることなく、結婚当初から住んでいるという1LDKのアパートにところ狭しと置かれていました。
ナショナル・ギャラリーへの寄贈の際には、家1件引っ越せるサイズの大型トラックが5台も必要だったというから驚きです。
あふれる魅力
この映画には、NYのアートシーンはもちろん、アートへの強いこだわりと情熱を持つチャーミングな2人の魅力があふれています。
アートを特別なものでなく、人生の一部として楽しんできた2人のこれまでをたどる中には、人生を豊かにするヒントが隠れているような気がします。
実はこの映画には続編があり、ナショナル・ギャラリーに収容しきれなかったコレクションを50の州の美術館へ50作品を寄贈するという全米規模の計画、「ヴォーゲル・コレクション50×50」の全貌を追った『ハーブ&ドロシー2 ふたりからの贈りもの』が2012年に公開されています。
“アートは楽しむもの”ということに気づかされるハーブとドロシーの物語、ぜひ2作あわせてご覧ください。
ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人
驚きのアートコレクションを築いた、2人の老夫婦の物語