複数ブランドを活かすブランドポートフォリオ戦略

企業が成長し、事業が拡大していく中で複数のブランドを展開することは、一般的な戦略のひとつです。新しい市場に参入したり、異なる顧客層にリーチするために、新たなブランドを立ち上げることは有効な手段と言えるでしょう。

無作為にブランドを増やすことは、大きな危険性をはらんでいます。ブランドの管理が複雑になったり、それぞれのブランドでバラバラの戦略を取ることで費用がかさんだり本来ブランドの持つ力を最大限に活かすことができなくなる可能性があります。

ブランドポートフォリオ戦略とは、各ブランドのブランディングを強化するように体系化、管理することです。事業を展開するうえで、ブランド間での重複やブランディングの非効率を防ぎ、ブランドの力を最大化します。

複数ブランドを展開することのリスク

顧客の需要に広く応えることで、いろいろな製品や事業を展開してしまい、企業自体がどこを向いているのか分からなくなってしまっていないでしょうか。無作為にブランドを増やすことは、具体的には以下のような危険性があります。

バラバラの方向を向いてしまう

こっちでは、オーガニックを謳い、こっちでは最先端の化学肥料を販売する。極端な例えではありますが、このように同じ目的や意思を持たない事業展開をしてしまうと、何をめざしている会社なのか消費者は混乱してしまいます。

連携がとれない

それぞれが個々の動きをしているため、お互いにブランドの状況が把握できておらず、情報共有や協業が難しい状態になってしまいます。同じ目的を持つブランドとして戦略を理解し最大限の力を発揮するべきです。

財産になりにくい

ブランド単体としては財産になりますが、企業の将来を考えた際には、バラバラの意思を持ったブランドの集まりでは、本当の意味での財産にはなりにくくなります。ひとつの大きな塊となることができず、扱いづらいブランドの集まりになってしまいます。

では、どうすればブランドを体系化しブランド力を最大化でき、企業にとってひとつの大きな財産になるのでしょうか。それは、いくつかあるブランドポートフォリオ戦略のメリット・デメリットを理解し自社のブランド展開にあった戦略をとることで達成されます。

3つのブランドポートフォリオ戦略

ブランドポートフォリオ戦略は大きく3つに分けられます。

マスターブランド戦略

「グループ・ブランド」や「コーポレート・ブランド」が持つ知名度を傘(アンブレラ・ブランド)にし、その下に事業や製品を展開する戦略のことです。この戦略では、ブランドは一つです。ソニー株式会社やNIKEなどが、一つのブランドを傘に事業を展開し成功している企業と言えます。

メリットとしては、新規ブランドの周知がスムーズに行えること、効果的な宣伝活動による費用対効果があります。デメリットとしては、リスクが集中してしまうこと、規模の大きなブランドになることで柔軟性が欠如してしまうことです。

フリースタンディング・ブランド戦略

フリースタンディング・ブランド戦略は、ひとつの企業の下、複数のブランドを展開する戦略です。P&Gのように、「アリエール」「ボールド」「レノア」など洗濯用洗剤のカテゴリーで複数展開していたり、「SK-Ⅱ」という化粧品をコーポレートブランドを全面に出さずに独立したブランドとして展開することです。

メリットとしては、複数ブランドを同一カテゴリーで展開することで、幅広い層のシェアを獲得できることと、リスク分散ができ影響を最低限に抑えられることです。デメリットとしては、各ブランドに資源や情報が蓄積され、全体で見たときに非効率が生まれてしまう可能性があることです。

エンドースドブランド戦略

エンドースドブランド戦略は、上記で紹介した2つの戦略「マスター・ブランド戦略」と「フリースタンディング・ブランド戦略」を折衷させた戦略です。Apple社のように、Apple WatchやApple TVの製品では企業名で品質保証をし、シェアが高いMacやiPhoneなどはブランドとして独立させています。

メリットとしては、品質保証と訴求力を活かしながら、個別ブランドで柔軟性を持つことができブランド展開を加速させることができることです。デメリットとしては、体系が複雑で管理が難しくなりやすく、一貫性を保てなくなるリスクをかかえていることです。

体系化・管理だけが戦略ではない

例えば、東急グループでは、東京急行電鉄を中核とする企業グループですが、沿線の豊かな街づくりを目標としており、ひいては沿線の電車利用客の増加につなげることを目的としています。沿線価値向上のために経営資源を集中させる方針を取り、ピーク時500社あったグループ企業も214社(2024年4月1日時点)まで減少しましたが、業績は大きく好転しています。

ブランドは、戦略を立てるだけでは思うように成長することはありません。大事なのは、体系化を行ったうえでブランドのあるべき姿を見つけ、全ブランドに浸透させることです。広告など外への意識が強くなりがちですが、インナーブランディングを強化することで、自ずとあるべき姿へ成長をとげることでしょう。

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