現代のビジネスに必要な「デザイン思考」とは?フレームワークや課題も解説

働き方や価値観の多様化などにともない、消費者ニーズや各種サービスは急速な変化を遂げています。そのため、ビジネスの場では従来とは異なる発想が求められつつあり、なかでも注目を集めているのが「デザイン思考」です。デザイン思考では、ユーザーの視点から物事を考えて、本質的な悩み・ニーズに対応します。この記事では、デザイン思考の概要と有用なフレームワーク、導入における課題点について解説します。

 

デザイン思考とは

デザイン思考とは、問題・課題に対して、デザイナーが「デザイン」を制作する際の考え方や手法を活用して解決に導く考えかたのことです。ここでいう「デザイン」には、「装飾」ではなく「設計」という意味合いが強くあります。ここではデザイン思考の概要と、どうして注目を集めているかを解説します。

プロセス

デザイン思考のプロセスについては、ハーバード大学のハッソ・プラットナー教授が「デザイン思考の5段階」を提唱しています。5つのプロセスの詳細は以下のとおりです。

1.共感
まずはユーザーを観察して共感します。具体的には、サービスやプロダクトに関してユーザーが感じている課題をとらえて、ユーザーのニーズを探ります。ユーザーの意見をそのまま鵜呑みにするのではなく、ユーザーの立場で感じられる本音を知ることが重要です。

2.定義
次に、ユーザーが本当に求めているものを導き出します。多くのユーザーは自分のニーズを本質的には理解できていないため、ユーザーが認識している範囲より深い潜在的なニーズを探る必要があります。

3.概念化
続いて、定義された課題を解決するアプローチの方法を検討します。なるべく多くの人材を使って多数のアイデアを出すことが重要です。多くのアイデアを分類して、最も多くの支持を集める具体的なアイデアにまとめ上げます。

4.試作
その後、概念化したアイデアを形にしていきます。試作品の製作により新たな課題を可視化して、より具体的なアイデアをイメージできるようにします。あくまでも課題点を探るために作るため、試作品にコストや時間をかけすぎないよう注意が必要です。

5.テスト
最後に、試作品の制作や社内での検討を経てから、ユーザーに使用感を問います。そして、ユーザーからのフィードバックをもとに、定義した課題と本質的なニーズが合致しているか否かを確認します。テスト結果をふまえて製品を改善して、最終的な解決を目指します。

ビジネスシーンで必要とされる背景

このようなデザイン思考のプロセスは、主に以下の2つの理由から、昨今のビジネスシーンにおいて重要性を増しています。
背景の1つめは「DX化」、すなわちデジタル技術によって私たちの生活をより良いものにしていく取り組みです。現代は世界的にDX化が推進されており、会社はユーザーのニーズを発掘しつつ、前例がない問題に対して答えを導き出す必要に迫られています。前述のとおり、デザイン思考はユーザーの視点に立って課題の本質を発見することを特徴としているため、このDX推進においても有用なのです。

また、「サービスデザイン」実現の観点からも重要視されています。サービスデザインとは、ユーザーの体験だけでなく、その体験を継続的に提供できる組織・仕組みもデザインして、新たな価値を創り出す方法論です。デザイン思考と同じくユーザー視点に立った方法論で、市場において競合製品と差別化してユーザーから選ばれる製品を作るために、現在多くの企業が注目しています。

ビジネスにもたらす効果

では、デザイン思考をビジネスの場に導入することでどのようなメリットがあるのでしょうか。
まずは、デザイン思考によって新しいアイデアを生み出しやすい社内環境を構築できます。先述したデザイン思考の5段階のプロセスを経ることで、仮説の検証やPDCAサイクルを繰り返しつつ、新たな気付きやアイデアを生み出せる環境が醸成されていくでしょう。

また、組織そのものの強化も期待できます。デザイン思考を取り入れると、チームのメンバー同士で意見を交換し合う過程で認識や方向性を共有できるため、メンバー間の信頼関係の構築が可能です。デザイン思考によって商品・サービスの品質向上を実現できるだけでなく、メンバー同士の結びつきが強まることで組織全体の強化も目指せるでしょう。

 

デザイン思考のフレームワーク

デザイン思考を実践する際は、既存のフレームワークを活用しながら行うと効果的です。フレームワークを用いることで考えを可視化しやすくなり、チーム内での共有が容易になります。生産性を高めるためにも、ぜひ有効活用しましょう。以下ではデザイン思考に役立つ主なフレームワークを3種類紹介します。

共感マップ(エンパシーマップ)

共感マップ(エンパシーマップ)は、6つの視点からユーザーの思考・行動を整理するフレームワークです。さまざまなニーズを以下の6種類に当てはめて、ユーザーについてより深く理解することを目指します。

・See(見ているもの)
・Hear(聞いていること)
・Think(考えていることや感じていること)
・Do(発言や行動)
・Pain(痛みやストレス)
・Gain(望んでいること)

共感マップを活用することで、自社で設定したペルソナが実生活において感じることや考えることなどを明確化でき、ユーザーの考え方や価値観を分析するうえで役立ちます。

事業環境マップ

事業環境マップはビジネスモデルを深掘りするフレームワークで、基本的には「SWOT分析」と同時に使用します。事業環境マップ、SWOT分析のいずれも対象をさまざまな観点から分析していきますが、2つの分析を同時に行うことでより精度高く分析可能です。

事業環境マップ
・市場
・業界
・トレンド
・マクロ分析

SWOT分析
・Strength(優位点)
・Weakness(課題)
・Opportunity(機会)
・Threat(外的脅威)

ビジネスモデルキャンバス

ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルの各要素を以下の9種類に分けて分析するフレームワークです。すべての要素を整理し俯瞰することで、ビジネスや商材全体の方向性を簡潔にまとめられます。気付かなかった課題や新たなアイデアのヒントを得るために役立つ手法といえるでしょう。

・Customer Segments(顧客セグメント)
・Customer Relationships(顧客との関係)
・Channels(販路)
・Value Propositions(提供価値)
・Key Activities(主要な活動)
・Key Resources(主要な資源)
・Key Partners(主要なパートナー)
・Cost Structure(コスト構造)
・Revenue Streams(収益の流れ)

 

デザイン思考の課題

ここまでご紹介したようなデザイン思考のプロセスやフレームワークは、うまく扱えればビジネスの大きな助けになりますが、導入・活用するうえでの課題点も存在します。以下でご紹介するような留意すべきポイントを押さえつつ、デザイン思考を適切に導入するために必要なスキルや環境を整備して、メリットを十分に享受しましょう。

ありきたりな問いになる可能性がある

デザイン思考はユーザーの視点に立って悩みやニーズ、潜在的問題などを探る手法です。デザイン思考を意味のあるアプローチにするためには、十人十色の考えを持つユーザーの視点に立てるような、広い視野と高い発想力が必要不可欠だといえます。
スキルが不足しているなかでとりあえずデザイン思考を取り入れてしまうと、課題設定がありきたりになってしまうため、意味のある結論を導き出すことは困難でしょう。そのため、デザイン思考を取り入れる際は、「何が問題か」「どうすれば解決できるか」といった問いに対して、柔軟に考えられるスキルを持つ人材の育成・採用を同時並行で進めていくことが重要です。

メリットを理解してもらいにくい

デザイン思考の必要性やメリットについて、十分な社内理解を得ることが難しいという問題もあります。そもそも企業に属する社員の大半が、デザインと関係のない職種に就いています。そのため、「デザイン思考」という名前を聞いただけで、「自分とは関係ない」と感じるケースが少なくありません。
このように、スタート地点で興味を持ってもらえなければ、メリットや必要性への理解を求めることも難しいでしょう。デザイン思考への理解が進まない会社では、当然ながらデザイン思考を実践することは難しく、考え出されたアイデアの実行自体もスムーズには進まないでしょう。結果としてデザイン思考の経験値が蓄積されなくなってしまうため、まずはメリットの社内理解の推進を重視する必要があります。

 

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まとめ

この記事では、デザイン思考の概要と有用なフレームワーク、導入における課題点について解説しました。ユーザーの視点から問題解決に取り組むクリエイター的な思考は、これからのビジネスに欠かせないアプローチです。デザイン思考やデザイン面の施策についてご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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