デザイン思考が支えるDX

DXの挑戦とデザイン思考の力

DXは、デジタル技術を使用してプロセス、文化、体験を根本的に改革し、価値を創造し、競争優位性を強化するプロセスです。しかしながら、DXは単純なデジタルツールの導入で済む話ではなく、組織全体の変革とビジネスモデルの再構築を必要とします。テクノロジーの導入とその活用法を理解するだけでなく、企業文化の変革、リーダーシップの視野、そして顧客体験の最適化という複数の課題に対処する必要があります。

私たちは、観光庁が推し進めている「観光DX」というプロジェクトのブランディングを担当させていただいています。このプロジェクトは、旅行や観光業界にDXを導入し、それを通じて観光体験をより楽しく、より便利にしようというものです。

 

観光DXを通じて

このプロジェクトを通して、DXにデザイン思考のアプローチが非常に有効だということを実感しました。デザイン思考とは、顧客やユーザーのニーズを中心に考え、その解決策を模索するプロセスのことを指します。この手法は、観光体験の質を向上させるための新しいアイデアやサービスを生み出すのに一役買ってくれています。同時に、関係者の理解が大きな障壁となることも、プロジェクトを通して感じることができました。

 

まず最初の問題は、関係者の多くがDXとは一体何なのか、なぜそれが重要なのかを理解すること自体に難しさを感じてしまっている点です。DXには専門的な知識が必要であり、デジタル技術がビジネスや組織の運営にどのように影響を与えるかを理解するためには、その背後にある概念とメカニズムを把握する必要があります。また、DXは新しい技術やシステムの導入だけでなく、組織の文化や慣習、ビジネスプロセスの変革を伴うため、関係者全体がその価値を理解し、共有することが不可欠です。

しかし、変化に対する抵抗感や不安、新たな取り組みに対するスキル不足など、様々な要因からその理解や共有は簡単ではありません。このような課題を克服するためには、まず経営層からの強いリーダーシップが求められます。DXの目標と方向性を明確に設定し、それを組織全体に伝えることで、関係者全体の理解と共有を促すことができます。

次に、関係者に対する教育とトレーニングも重要です。DXに必要な知識やスキルを提供し、その理解を深めることで、関係者が自分自身の役割を理解し、DXの取り組みを支えることができます。最後に、成功事例やパイロットプロジェクトを通じて、DXの具体的な効果や価値を示すことも有効です。これにより、関係者がDXの意義を具体的に理解し、その取り組みに自信を持つことができます。

 

ここで登場するのがデザイン思考です。デザイン思考は、ユーザーのニーズを理解し、そのニーズを満たすための創造的なソリューションを追求するプロセスです。この方法論は、共感、問題定義、発想、プロトタイプ、テストという5つのステージからなり、問題解決に対する新たな視点として幅広く活用されています。デザイン思考はDXの挑戦の鍵となるソリューションを提供します。顧客体験の最適化、プロセスの改善、新たなビジネスモデルの創出など、DXの各段階でデザイン思考の手法が活用できます。さらに、デザイン思考は組織文化にも影響を与え、チームの共感力と創造性を高め、組織全体が顧客中心の視点を持つように促します。

 

DXの障壁: デザイン思考が解決する課題

この観光DXプロジェクトでは、デザイン思考のアプローチを積極的に取り入れ、その理解を深めるための取り組みもプロジェクトメンバーで行いました。

まず、私たちはデザイン思考のワークショップを実施しました。ここでは、プロジェクトのビジョンを共有し、DXが観光業界にどのような価値をもたらすのかを議論しました。また、ワークショップではチームワークの重要性も再認識しました。DXは一人だけで進めるものではなく、チーム全体での協力と各メンバーの理解が必要であるという認識を深めることができました。

また、ワークショップ内ではカスタマージャーニーマップも活用しました。これは顧客が製品やサービスを利用する過程を視覚的に表現するツールで、顧客の視点から見たときにどのような問題や課題が存在するのかを明確にすることができます。カスタマージャーニーマップを用いて、観光体験の各ステージでどのような問題が存在するのか、どの部分が改善を必要としているのかを定義しました。このプロセスにより、観光客の体験をより深く理解し、より具体的な解決策を提案することができました。

デザイン思考を用いたこれらのアプローチはプロジェクトの目標により一層近づく手助けとなり、それぞれのメンバーがDXの意義を理解し、一体感を持って取り組むことができるようになりました。

このプロジェクトの詳細は下記からご覧ください。

 

成功事例: デザイン思考が生んだDX

その他にも、デザイン思考の手法を採用したDXの成功事例は数多く存在します。その中から1つピックアップし、具体的なプロセスと結果を探りましょう。

IBMは、デザイン思考をDXの推進に活用した企業の1つです。2000年代初頭、IBMは競争力を失いつつあり、難局に直面していました。しかし、デザイン思考の手法を導入することで、組織全体の改革とデジタル化に成功しました。

IBMのデザイン思考は、「エンタープライズデザイン思考」と名付けられ、組織全体のイノベーションを促進する目的で導入されました。このプロセスでは、ユーザー中心のアプローチを採用し、その視点から製品やサービスの開発に取り組みました。

具体的には、IBMはまずデザイン専門家を雇用し、彼らが他の従業員にデザイン思考のスキルとマインドセットを教える役割を果たしました。従業員全員がデザイン思考のトレーニングを受けることによって、組織全体がユーザー中心の思考に基づく決定を行う文化が醸成されたのです。この改革により、IBMは製品の開発プロセスが効率化され、製品の品質が向上しました。顧客満足度も大幅に上昇し、その結果、IBMのビジネスは再び成長を遂げました。

 

このIBMの例は、デザイン思考がどのように組織全体のDXを推進し、結果的にビジネスパフォーマンスの向上につながるかを示しています。デザイン思考は、組織がデジタル化の障壁を克服し、ユーザー中心のイノベーションを実現するための強力な手段となることができます。

さらに、デザイン思考は組織全体のマインドセットを形成する役割も果たします。ユーザー中心の思考を組織全体に広げ、全ての決定がユーザーニーズを最優先に置く文化を醸成することで、組織は持続可能なDXを達成することができます。デザイン思考はユーザーエクスペリエンスの改善とともに、DXの推進において不可欠な役割を果たします。その結果、組織は競争力を保ちながら、持続可能で効果的なDXを達成することができるでしょう。

 

デザイン思考の実践: DXを推進する方法

デザイン思考は、組織がDXを達成するための強力なアプローチであることが分かりました。その理由の1つは、デザイン思考が問題を解決するための具体的なフレームワークを提供するからです。ここからは、デザイン思考の主要なステップを紹介します。

Empathize(共感)

ユーザーの視点を深く理解するための第一歩です。具体的な行動としては、ユーザーと直接対話したり、ユーザーの取り巻く環境を観察したりします。ここでの目的は、ユーザーが抱える課題やニーズ、価値観を把握することです。「ペルソナ」を作成し、具体的なユーザープロフィールを明確にすることや、「共感マップ」を用いてユーザーの感情や思考、行動を視覚化することが挙げられます。

Define(問題定義)

ユーザーリサーチから得た洞察をもとに、解決すべき本質的な問題を明確にします。問題定義は明確に人間中心の視点で書かれるべきであり、「カスタマージャーニーマップ」の作成が有効です。カスタマージャーニーマップは、誰がどのような問題にいつ直面しているのか、そしてそれがなぜ重要なのかを探る手助けとなります。

Ideate(創出)

問題解決のための多様なアイデアを自由に生み出します。このステージでは制約を設けず、大胆なアイデアも歓迎します。「ブレインストーミング」を行うのが一般的で、「マインドマップ」を用いてアイデアの洞察と関連性を視覚的に整理するのも有効です。

Prototype(試作)

生成されたアイデアを具体化します。このステージの目的は、アイデアを形にし、その実現可能性を試すことです。その手法は「スケッチ」や「ワイヤーフレーム」、「モックアップ」などがあります。これらはアイデアの視覚的な表現であり、ユーザーやチームメイトにアイデアを共有しやすくします。

Test(検証)

作成したプロトタイプをユーザーに試してもらい、フィードバックを得ます。ユーザーの反応を観察し、それをフィードバックとして取り入れることで、ソリューションの改善を行います。「ユーザーテスト」や「インタビュー」が有効な手法となります。

デザイン思考のプロセスは反復的であり、フィードバックをもとに製品やサービスを改善していきます。このプロセスを通じて、組織はユーザー中心の製品やサービスを開発し、DXを推進することができます。

 

デザイン思考を活用したDXの未来

デザイン思考は、組織がDXを実現するための強力なアプローチとなり得ます。ユーザー中心の視点を採用することで、デザイン思考は組織に新たな価値創造の機会を提供します。それは、製品やサービスが真にユーザーのニーズを満たすものになることを可能にするからです。

また、デザイン思考は組織のデジタル化を推進するためのカルチャーを築く道具でもあります。デザイン思考を採用することで、組織はユーザーの視点を中心に置き、革新的なアイデアを創出し、それを具体化していくプロセスを身につけることができます。観光DXでの経験やIBMの例は、デザイン思考が組織のDXを成功に導く方法を示しています。デザイン思考の活用はその他の組織でも可能で、さまざまな業界や状況で有効であると考えられます。

デザイン思考はDXを推進する一方で、新たなビジネスモデルやサービス、製品を創出する可能性も秘めています。これはデザイン思考が組織をユーザーの視点に立たせ、新たな価値創造の視点を提供するからです。これからのDXは、単にテクノロジーを導入するだけでなく、デザイン思考に基づいたユーザー中心のアプローチが必要となるでしょう。そして、そのアプローチは組織が新たな価値を創出し、競争力を維持するための重要な鍵となるのです。

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