進化し続けるプロジェクションマッピング
近年になって、日本でもイベント会場の空間演出を始め広告やアートといった分野において、プロジェクションマッピングという映像表現が私たちにとって身近なものになってきました。
今回は、プロジェクションマッピングのスペシャリストとも言える、antymarkの松波 直秀さんにプロジェクションマッピングを手がけるようになったきっかけや、もの作りに対する想いについてお話を伺いました。
antymarkは2009年から活動を開始し、システム担当の松波さんと、映像、音響、
プログラマーからの転身
―antymarkはどのような体制で活動されているんですか?
松波 会社としてantymarkを設立する以前から数名で活動しています。私がマッピングの調整、システム、インタラクティブなものを主に担当し、現場に応じて映像、音響、照明などを担当するメンバーと一緒に行っています。
小さいものは自分たちだけで全て行いますが、大きいものの場合は、ほかの仲間とチームを組んだりもしています。
あとこの業界はまだまだ狭いですが、仕事の依頼が少しずつ増えるなかでプロジェクションマッピングを手がける会社も増えていますね。
―元々は映像系の仕事ではなかったんですよね?
松波 そうなんです。情報処理系の専門学校を出て、最初はプログラマー+Webデザイナーとして就職しました。20代の半ばからフリーランスで働いていましたが、デザインもちゃんとやらないといけないと考えて、DTPにも携わっていました。
その後30歳を過ぎた時に映像に興味が湧いて、岐阜にあるIAMASというメディアート系の学校に入学してこの世界に入ってきました。
ちなみに、きゃりーぱみゅぱみゅが出演したテレビCMで、東京の増上寺でプロジェクションマッピングを手がけたRhizomatiksとか、こういうインタラクティブなコンテンツを行っている会社にはIAMASの出身者が多いみたいですね。
プロジェクションマッピングとの出逢い
―そうだったんですね。それからどんな経緯で今に至ったんですか?
松波 IAMASを卒業してから、VJ、空間演出、DMXを使った照明とかの仕事をしていて、当時間借りしていた会社で、数名のクリエイターと知り合ってユニットを組み始めました。
動画サイトで海外のプロジェクションマッピングの事例を見て自分もやりたいと思い始めたんですが、日本では一部メディアート界隈でやっていた人もいましたが、その頃はまだほとんど知られていなくて純粋に面白そうだなと感じました。
2000年前後の話ですが、思い起こすと「プロジェクションマッピング」という名称はまだ付いていなかったんですよね。日本で初めてプロジェクションマッピングの本を書いた映像アーティストのVJ MASARUさんも、もしかしたら当初はマッピングとは言っていなかったかもしれません。何もない壁に穴が空いて蜂がボコボコと飛び出すような映像とかを手がけられていましたが、名称がついたのは2000年代に入ってだいぶ経ってからでしたよね。
―例えば「UX設計」とかもその名称がついてから加速度的に概念が浸透しましたよね。
松波 名称って大事ですね。私たちの活動も「プロジェクションマッピング」という名前がついて本格的になりました。
活動し始めの頃はコワーキングスペースみたいにして色んな所を巡って活動していましたが、マッピングソフトもなく、小さなボックスを置いて、イラストレーターとかフルスクリーンで投写してパスを書いて、そこでアニメーションを作ったりしました。
それを“どうやっているの?”とか“いくらでできるの?”みたいな話をよくされるようになって、だんだん仕事として成立するようになった感じです。
―絶対に起業したい!というような野心があった訳ではないんですね。
松波 それは全くなくて、あくまでも趣味の延長みたいなものでした。(笑)
私たちの活動もだんだん仕事として大きなお金が絡むようになり、単価が高いと対企業じゃないと発注しづらいって言われることもあって、それで3年くらい前に会社を作りました。
京都から各地へ
―ところで現在の拠点は京都ですよね。場所がら題材が多いのでは?
松波 京都って多少閉鎖的な場所だとか一般的に言われていますよね。福岡も同じような傾向にあるみたいですが、仲良くならないとなかなか心を開いてもらえないんです。逆に仲良くなったらすごく強いつながりが生まれる。
持ちつ持たれつと言うか、一度でもちゃんと仕事できたらお互いに仕事を回していこうと考える人が多いですね。色んなクリエイターがいて、私も色んな刺激を受けられる。そういう理由もあって京都にいます。
あと世界一の観光都市なので、色んな人たちが出入りして色んなチャンスがあるかな、って。これは後付けですけれど。(笑)
―福岡も観光客の玄関口だから、ぜひ福岡に来てほしかったです!
松波 そうですね。例えば東京でもどこでも良かったんですが、東京って“全部揃っているのに実は何もない”みたいなことを言っていた人がいて、確かにそうだなと。
―レミオロメンが歌っていた“全てがあるのに全部はない世の中”って歌詞のようですね。
松波 まさにそうです!(笑)
京都も福岡もそうだと思うんですが、地方都市の面白さを感じています。インターネットが当たり前の社会になって情報格差が少なくなりましたよね。場所や地域に左右されず、例えば昔ながらの街のなかで古い建物をリノベーションしたりして、豊かな環境が豊かな人を生むのではないかと考えています。
―でも各地を飛び回っていて京都にいることが少ないのでは?
松波 そんなこともないですけれど、最近たまたま九州に来ることが多いですね。ショッピングモールでマッピングの仕事があったり、専門学校から授業でマッピングを取り入れたいとのお話があって、セミナーを開かせてもらったりもしました。
あと先日は佐賀でのイベントで、私が普段使っているWindowsで動かすTouch Designerというソフトについてのワークショップを行いました。
プロジェクションマッピングのこれから
―ご活躍の場が着実に増えているようですね。
松波 屋外のイベントだと天候などに左右されてリスキーな部分もあるので、これからはブライダルなど屋内で行うイベントを手がけることを模索しています。
制作者にとって直接関係ないリスクかもしれませんが、せっかく作っても雨のせいで上手く映像が出なかったりお客さんが少なかったりしたら、あまり意味がないものになってしまいますし率直に残念ですよね。
―今後プロジェクションマッピングはどう進化していくと思いますか?
松波 映像に対して皆が見慣れてきているので、もっとインタラクティブ要素が必要だと思っています。昨年末の「ブラザー グリーンクリスマス 2014」というイベントでは、映像を見ている人が手元のスマホやカメラで写真を撮って、その場で画像を投稿するとマッピングされるようなものを手がけました。
個人的にはハードと映像を連携させたものとかを今後は手がけたいと思っていて、特に昨年世界中で話題になった「Box」という映像がすごくて、こういうものをやりたいなと。
機械と映像をすべて制御して、アームが四角い板を動かしながら、その板の位置に合わせてマッピングするんです。これ、後方に機械が見えている感じが逆にかっこいいですよね!
―松波さんご自身の将来的な展望はありますか?
松波 私は楽しければ何でもいいんです。今はたまたまプロジェクションマッピングですが、楽しければ映像じゃなくてもいいんです。
ただ単に“作りたい欲求”を何かににぶつける。これからもそのスタイルだけは変わらないと思います。
―本日は大変興味深いお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました!
分かる!できる!
プロジェクション・マッピング
著者:antymark
初版:2014年5月13日
定価:2,100円+税
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント