KYNE×NONCHELEEE 人気イラストレーター2人のルーツをたどる
先日、福岡・薬院に「ON AIR」というアトリエ兼ギャラリースペースをOPENしたばかりの、イラストレーターNONCHELEEEさんとKYNEさん。
福岡を拠点に各地で幅広くご活躍されているおふたりに、1度見たら忘れない印象的なその作風がどのように確立されたのか、ルーツについて伺いました。
日本画の平面的な世界観
― おふたりの現在の作風が確立されるまで、どのような道を経てきたのか教えて頂けますでしょうか。
KYNE 僕は元々人物画が好きで昔からよく描いていたんですが、10年前は壁にこんな絵をスプレーで描いていました。それとは別に大学時代は日本画を描いていました。日本画を描いていた時のタッチは、いまの作風に近いと思います。
― 日本画にルーツがあったんですね!でも、なぜ日本画を選ばれたのでしょうか。
KYNE もともと油絵をやっていたんですが、絵の具を重ねて立体的に描くところが合わないなと思ったんです。もうひとつの理由が、高校もデザイン科専攻だったんですが、高校の同級生にすごく写実が上手な油絵を描く友だちがいて、いまその友だちはプロの画家になっているんですが、それもあって油絵だと絶対勝てないから別のことを勉強しようと思って、たまたま選んだのが日本画でした。
KYNE 日本画は絵の具が特殊なので、油絵と違って立体的に描く表現には向いてないんです。影もあまり出てこないような平面的な世界観の中でいかに奥行きを見せるかという面白さがあって、それがいまの作風に通じる感覚になってる気がします。
― そこからストリートに出ようと思われたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
KYNE 昔からストリートやグラフィティはずっと好きで、小学校の頃からトンネルや高架下に描いてある絵の写真を撮りに行っていたんです。それと同時進行で美術にも興味がありました。
スプレーを使った絵は18歳くらいの頃から描いてたんですけど、これは誰でも描けるし個性がないなと思って新しいスタイルを模索していたところ、日本画でやってた表現と街での表現が重なってきました。それぞれがバラバラで折り合いがつかないなと思っていた自分の中の趣味やルーツが、全部固まったという感じですね。
ルーツはインドのゴミとバリ島の絵
― NONCHELEEEさんは昔から音楽活動をされていたそうですが、音楽からイラストの世界に入られたのにはどんなきっかけがあったのでしょうか。
NONCHELEEE 3年前ぐらいに魚屋に転職したのが、イラストの世界に入った大きなきっかけかもしれません。その時は時間があるけどお金が無くて、ライブ会場で何かを売ろうと思った時に、音楽をつくるのはすごく時間がかかるけど絵だったらなんとか間に合うかなと、1ヶ月後のライブまでに本を1冊つくって売ろうと思ったんです。時間があったのでとにかく描いていたら、いまの絵の独特の輪郭線が偶然生まれた時がありました。
独特の輪郭線のルーツがどこにあるのかたどってみたら、インドに海外旅行をした時にインドのゴミの中にいい顔があったんです(笑)。そこにインスピレーションを受けて、インドでもタイでもゴミ拾いをしていました。
バリ島ではあまりゴミが落ちていないので美術館に行ったら、カラフルでにぎやかなすごく可愛い絵があったんです。それはバリ島の伝統的なイラストのようなもので、「ディズニーみたいだな」という印象を受けました。それまでディズニーというか西洋のものに興味がなかったんですが、こういう方向性はアリだなと。
その時に“ニュピ”というバリ島の正月があって、その期間は空港も閉鎖され、地元の人はもちろん観光客も何もしてはいけないんです。24時間ホテルに閉じ込められていてとにかく暇なので、その時にトロピカルギャグ漫画を描いたんです。それは5~6年前の話ですが、その時には絵の原点がすでに出来上がっていたので、直接的な絵のルーツはバリ島で見た絵かもしれないですね。そこからにぎやかムードの絵を描くようになりました。
― 南の国にルーツがあるからNONCHELEEさんのイラストは陽気で明るい印象があるのかもしれないですね。
NONCHELEEE そうですね。あとは明るい表現しかしたくない、ポジティブなものしか出したくないという気持ちはすごくあります。単純に人を楽しませたり笑わすことが好きで、音楽もイラストもその手段のひとつだと思ってやっているので、暗い必要はないかなと。
ただ、4月に発売を控えている本に載せるために、この間12ページのマンガを描いたんですが、その中で明るさを際だたせるために厳しい表情も描く必要があって、いつも笑っていたらいいってわけじゃないんだなと学びました(笑)。
お気に入りの道具と制作の仕方
― 作品の制作はいつもどのように行われているのでしょうか。
KYNE 僕の場合は、鉛筆でスケッチを描いてペン入れまでは手描きで、その後はスキャンをして、PC上で少しずつ修正をして線を減らし、どんどんシンプルにしていきます。スケッチは何枚も描ける時とうまくいかない時の波があるんですが、スケッチが出来上がれば、キャンバスになるまでは3~4日くらいで仕上げています。
― 作品に描かれている女性にはモデルがいらっしゃるんですか。
KYNE モデルがいるものといないものがありますね。髪型だけイメージがあったり、想像の中で「こういう人いるよなぁ」というところから描き始めたりしています。何人も顔を描いていると飽きてくるというか、次描くものに迷ってしまうので、そういう時には雑誌・インターネット・レコードのジャケット・YouTubeで昔のCMといったものを色々見るようにしています。そこでこういうポーズとか髪型は面白いなという刺激を受けて、また次の作品に取り掛かるという感じですね。
NONCHELEEE KYNEくんと一緒に作業をすることが多いんですが、描き始めるまでの作業が結構同じなんです。僕もYouTubeとかで昔の映像を見たりして、「この髪型やばい!」というところから出発して描き始めることが多いですね。2人してまったく同じものを見ているわけではないけど、同じようなものを見てぜんぜん違うアウトプットが出てくるのが面白いなと感じています。
僕はいつも顔から描いて、2人のイラストだとしたら2人の顔を描いてから2人の会話を想像して、そこから身体の動きを決めて描いていきます。僕の作品は最終的に印刷物になることが多いので、紙に描いてフィニッシュすることが多いですね。
― お気に入りの仕事道具があれば見せていただいてもいいでしょうか。
KYNE いろいろ試してきたんですが、このプロッキーは滲まないのと、細さと線の堅さがちょうど良くて気に入っています。キャンパスで描く時は、この平筆と面相筆をいつも使っています。面相筆はすぐに細い線が引けなくなるので、常に新しいものを何本もストックしています。気合を入れる時は新品を使って、あまり細かくない部分には使い込んだ2軍を併用する感じですね。
― なるほど。NONCHELEEさんのこれは、光る作業台ですね。
NONCHELEEE そうです、光るやつです!最近買ってもらったんです、ON AIR様に(笑)。これを買うまでは店内のタバコ売店のガラス台で朝までずっと立って作業をしたりしていたので、これはイカンと(笑)。これでトレースをして何枚も書き直す時の作業効率がアップして、最近の大発明ですね(笑)。
左端にある道具は平行線を引く時に使う道具なんですが、文字をつくる時に重宝しています。平行線をビーっと引いた上で、山の部分と谷の部分をつくってマスをつくり、そこに文字をつくっていきます。
この作業はPCでやればすぐに終わるんですが、手描きを信じているのでこの道具は欠かせないですね。ポスカはどこでも買えるし、コピックもコレがあれば大丈夫という安心の道具です。これから大きい作品もつくっていこうと思ってるのでまた変わってくると思うんですけど、現時点で使っている道具はこんな感じですね。
― キャンバスのような大きい作品をつくられるんですか?
NONCHELEEE そうなんです。いまKYNEくんにキャンバスでの描き方を教えてもらっています。
― KYNE先生ですね!2人での共同アトリエとなると、そういったこともできるんですね。
同業だからこそわかること
― 最後に、イラストレーターとしてお互いをどう見ていらっしゃるのかお伺いしてもいいでしょうか。
NONCHELEEE どのくらい真面目に言うべきですかね(笑)。KYNEくんは、自分の狙ったところに届かせるための方法がすごく上手だと思うんです。もちろん絵のクオリティが高いのは前提として、それ以上にちゃんと届ける、ちゃんと伝えることに長けてる人なんだろうなと。そのためのあらゆること、例えば顔を出さないのもそのひとつだと思うし、絵のために何をしたらいいのかというのがわかっている人だと思います。
― トータルでのプロデュースがお上手なんですね。確かアンディーウォーホルもトータルでのプロデュースのために鼻の整形や銀髪のかつらを被ったりしてましたもんね。KYNEさんはいかがですか?
KYNE そうですね、どう思うか…。単純に、NONCHELEEEくんは絵を描き始めてから職にするまでが速いじゃないですか。一緒にここを借りてからも、本を出版することになったり、キャンバス作品にも挑戦したりと、スピード感がすごいなと思いますね。絵の線もずっと変わっていないようで、どんどん洗練されていってるというか。
NONCHELEEE それはやばいですね(笑)。”洗練”て危ない言葉だと思うんです。ずっと描いているといい意味でも悪い意味でもどんどん上手になってしまうので、最初に描いていた頃の“やばい!なんやこれ!”っていう感覚はキープしたいですね。
KYNE あとNONCHELEEEくんは、どちらかと言うと求められているものをそのままやりたくないというのがあると思うんですよね。自分は割とニーズに応えがちなので、そこは自分とは違うところだなと思います。
― 想像のナナメ上をいく感じなんでしょうか。
NONCHELEEE 上だったらいいんですけどね(笑)。
― 変化球が得意ということですね。今後もお互いを刺激し合うことから生まれる新たな作品たちを楽しみにしています。本日はありがとうございました!
「FASHION WEEK FUKUOKA」のメインビジュアルを担当し、3月21日(火)〜26日(日)にはソニーストア福岡天神にて、初のキャンバス作品がお目見えするイラスト展「DORIAN FLAVOR」の開催、4月1日(土)には台湾のブックフェアにて初の本を発売するという怒涛のスケジュールのNONCHELEEEさん。KYNEさんのおっしゃる通りスピード感がすごいです。
作品のテイストや仕事の取り組み方はまったく違うものながら、おふたりの好きなものがうまく調和した空間となっているON AIRには、似ているところと正反対なところを持ち合わせたおふたりの関係性が、そのまま表れているように感じました。
お互いを刺激しあうことで、これからどんな化学反応が生まれていくのか、今後のご活躍も楽しみですね。
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