ファッションとイラストを繋げるイラストレーター黒木仁史さん

美しく写実的な線と水彩の織りなすエレガントさ、遊び心あるモチーフの組み合わせで、ファッション業界や「GINZA」「POPEYE」といった雑誌などを中心に、多彩に活躍されているイラストレーターの黒木 仁史さん。

今年の6月、福岡から東京に拠点をうつし新たな挑戦をされるという黒木さんに、イラスト制作の裏側や、これからのことについてお話を伺いました。

イラストレーターになるまで

―黒木さんは、どのような道のりを経てイラストレーターになられたのでしょうか。

黒木 小さい頃から絵を描くのが好きで、大学ノートに漫画を描くなど、漫画家を目指していた時期もありました。ただ、飽き性なので2ページくらい描いたらまた違うものを描きたくなってしまって、漫画家にはなれないなと。(笑)

イラストは1枚で完結するので、そういった意味でも元々イラストレーターには向いていたのかもしれません。

その後もずっと絵を描くのは好きだったので、高校の頃から近所のアトリエに通い始めました。そこではデッサンがメインで水彩も少し学んでいました。

その時期から美大系の進路を目指すようになり、一浪した後、大阪芸術大学に進んだのですが、イラストレーターになりたいというよりは、絵を描いたり、絵に限らずクリエイティブな仕事に就きたいなとぼんやりと考えていました。

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デビューのきっかけは、「digmeout」という若いアーティストを発掘して紹介していく、関西におけるアーティストの登竜門的なアートプロジェクトでした。

大阪の「FM802」という関西では有名なラジオ局が行っているプロジェクトで、合格すると1年間売り出してくれるのですが、そのオーディションに受かったことがきっかけでイラストレーターとしてデビューしました。

大学卒業後はギャラリーで働いたり、フュギュアイラストレーターのデハラユキノリさんのアシスタントを経てフリーランスとして独立し、いまに至ります。

作風の変化

―黒木さんの絵は写実的な線に水彩をのせているイメージがありますが、昔から作風は変わっていらっしゃらないのでしょうか。

黒木 高校時代に通っていたアトリエでも大阪の予備校でもデッサンを中心に習っていた反動なのか、大学在学中からデビューの頃までジャン=ミッシェル・バスキアのように崩して描くのがかっこいいと思って、“へたうま”な絵を中心に描いていました。

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色々なことをやりたいタイプなので、ゆるい絵からリアルな絵まで、20代のうちはテイストを定めずに描いていましたね。

それまではアクリル絵の具を使っていましたが、ふと水彩絵の具を使って描いてみようと思い、30歳の頃、水彩を使った作品だけの展覧会や個展を行いました。そうしたらお客さんからの反応がすごく良くて、そこから仕事の話を頂くようになったんです。

普段の仕事道具

―普段のお仕事は、依頼を受けてから完成するまで、どのように制作されているのでしょうか。

黒木 基本はまずラフを出して、その時点で色々チェックが入り、なるべく細かい部分まで内容を固めてから着彩に入ります。

着彩するともう引き返せないというか、やり直しがきかないので、ラフの時点でしっかり描くようにしています。

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着彩後に修正が入る時はパソコンでその部分だけ書き直しPhotoshopで合成しています。1枚で全部描くというよりは、背景と頭と体というようにモチーフを別々に描いてパソコン上でコラージュするという、いまはそのやり方が1番多いですね。

足の細さを変えたり、色を変えたりと実はPhotoshopが大活躍していますが(笑)、アナログな絵に見せるのが売りでもあるので、合成をしていてもそうは見えないように気をつけています。

―実はパソコンも駆使されて作品をつくられているとのことですが、他の仕事道具はどんなものを使用されているのでしょうか。

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黒木 ほんの一部ですが、今日道具を持って来ています。いつもCAMLON PROという筆を使用して描いています。水彩を描かれている人がこの筆を使用している率は高いですね。

筆洗につけたまま置いてしまうと毛先が曲がってしまったり、何枚も絵を描いているとどんどん毛先が広がっていってしまうので、ハリがありながらも柔らかい毛質で使いやすく、お値段もお手頃でちょうど良いので愛用しています。

―普段使われている道具を見ることができて嬉しいです。わざわざお持ち頂きありがとうございます!

アートに近いファッション

―作品を拝見していると、女性、動物、ファッションというモチーフが多いように感じますが、モチーフ選びの際のこだわりなどはあるのでしょうか。

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黒木 その3つのモチーフは意識して描いています。植物を描いて欲しいという依頼も多いですね。僕は男性なので、実は女性より男性のほうが描きやすいんです。(笑) 女性の絵ももちろん描きたくて描いているのですが、車のようにメカ的なものを描くのはやはり楽しいですね。

ファッションは、特にモードの世界になるとアートに近いものがあると感じています。僕の描くイラストもアート寄りに持って行きたいと思っていて、そうすることでファッションとの相性が良くなるんじゃないかと思って描いています。

―“ファッションのイラスト=黒木さん”というイメージが広まった大きな転機はいつだったのでしょうか。

黒木 「commons & sense」というモードでアバンギャルドな雑誌があるんですが、その雑誌に関わっている方にお話を頂いて、頭は動物でハイブランドの服を着ている人のイラストを、2週間くらいしか時間がない中で約20ページ分描きました。

ファッションを深く知っていたわけではないのですが、ファッションの仕事をしたかったので、ファッションが売りですというようなことを自分で言っていました。あくまで控えめにですが。(笑)

それを周りの人が知っていてくれたので、このようなお話を頂いて、とても運が良かったですね。

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その後も、「東京晩餐会」というファッション業界の方を中心とした一夜限りのアートイベントでもイラストを制作したことで、ありがたいことにファッションのイメージがついたような気がします。

ただ本当にファッションについて知らな過ぎるので、仕事をする度に勉強をさせて頂いています。

作品のイメージソース

―泣いている女の子を描いた「TEARDROP」シリーズは、紅白歌合戦に出演していたドリカムの吉田 美和さんが涙でマスカラがとれながらも歌っていたシーンを観て「キレイだな」と感じて生まれた、と以前イベントにてお話されていたと思うのですが、作品のインスピレーションはどういったところから得ることが多いですか。

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黒木 仕事では依頼があれば何でも描きますが、個展やプライベートで描くものでいうと、映画やマンガがイメージソースとなっていることが多いですね。

最近は忙しくてインプットができていないんですが、大阪に住んでいた時はレンタルビデオ屋で、以前東京に住んでいた時はマンガ喫茶でアルバイトをしていて見放題だったので、その時にインプットしたものが今にも生きています。

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好きな映画やマンガには偏りがあって、青臭いというか甘酸っぱい作品を観ることが多いです。スパイダーマンのようなハリウッド映画も好きなんですが、どちらかというと、ある人の人生の一部を淡々と見ているような文学的な作品の方がイメージソースとなることが多いですね。

ソフィア・コッポラ監督のヴァージン・スーサイズが好きなんですが、仕事で関わらせて頂いた時はイラストを仕事にして良かったなと、とても嬉しかったです。

仕事を自分で“つくる”ということ

―東京に拠点を移すことによってまた仕事に新たな広がりが生まれるかと思うのですが、今後こうしていきたいというお考えはありますか。

黒木 福岡に住んでいると、来た仕事を受ける“受注”というスタンスの仕事が多いのですが、最近は、仕事は自分でつくっていかないといけないんじゃないか、とすごく考えています。

例えば、以前アシスタントさせて頂いていたデハラさんも、ご自身の地元である高知県で、頼まれてもいないのに勝手にポスターをつくってそれを街の居酒屋に貼って、飲んで話して帰るということをしていました。

結局それが非公式の観光ポスターから公式ポスターのようになったということもあったので、自分から働きかけることは大事だなぁと。(笑)

―黒木さんが先ほどおっしゃっていた、ファッションに詳しいわけではないけど、“ファッション得意です”と売り込んでいたというのもそれに繋がりますよね。

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黒木 そうかもしれません。言い方はもうちょっと受け身ですけど(笑)、マインドは一緒かもしれないですね。

言霊じゃないですが、口に出して言っている様に少しずつ現実が近づいて来ているなという気はします。僕は基本怠け者なので、口に出して動いたほうが動きやすいというのもあるんですが。(笑)

―どんな仕事をつくりたいか、というのは具体的に何か考えていらっしゃいますか。

黒木 具体的ではないですが、例えばファッションブランドだとしたら、洋服をつくっている人と一緒に、僕はビジュアルづくりで参加したりというように、イラストレーターに限らず、ものづくりをしている若手の人たちと一緒に何かをやりたいと思っています。

最初はお金にならなくても、面白いなと思う人達と、お互いの持っているものを活かして仕事をつくっていけたら良いですね。そのためにはまず、もっと仕事のスケジュールをコントロールして、そういった活動をする時間をつくらないといけないのですが。(笑)

―今回の東京行きがまた大きな転機になりそうですね。本日はお時間を頂きましてありがとうございました!

ご自身の作風もお仕事へのスタンスにも柔軟さを持っている黒木さん。

今後もどのように活躍の場を広げられていくのか、どんな新しい仕事をつくられていくのかとても楽しみですね。

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