フォントで都市の価値を高める“都市フォント”プロジェクト
欧文と和文をひとつの書体ファミリーで組むための「AXIS Font」や、デジタル環境での読みやすさを追求した「TP明朝」など、時代の変化を見すえた書体開発をメインに、独自性の高い先進的な取り組みを行うType Project。
2009年より「都市フォント」の取り組みをはじめました。
それは都市が持っている独自の個性や魅力をフォントのデザインに取り入れることで、フォントを通して都市らしさを具現化するという試みです。
例えば、その都市で使用するフォントを都市フォントに統一することで、都市ブランディングのひとつとして、アイデンティティの形成や景観に貢献するツールとなることを目指しています。
世界の都市フォント
世界には都市ブランディングのためにつくられたフォントがいくつも存在しています。
例えば、イギリスの都市ブリストルで「わかりやすい都市ブリストル」を目指し開発されたのは、「Bristol Transit」というオリジナル書体。
ベルリンの地下鉄書体である長体の「Transit」を元につくられ、都市のサインシステムや路上マップ、携帯歩行用マップにも統一的に使用されています。
その他にも、イタリアのローマや韓国のソウル、フランスのトゥールーズなど、都市のブランディングやアイデンティティために書体がつくられた都市はたくさんあります。
日本での取り組み
Type Projectが2009年に立ち上げた都市フォントプロジェクトのひとつとして、名古屋をイメージした「金シャチフォント」がつくられました。
起筆部分には金シャチの反り、ウロコと呼ばれる終筆部分に名古屋城の破風と屋根の反りの形状を反映させ、名古屋文化の象徴をとり入れたフォントとなっています。
2015年には、東京の新しい街区表示板を提案する「東京シティフォント」がつくられました。
東京シティフォントは、江戸っ子と東京人に通じるさっぱりとした気質を表現した飾りのないサンセリフ体、てきぱきしている様子を表した軽めのライトウェイト(太さ)、垢抜けている様子をあらわした細身のコンデンス(字幅)、いきいきとした様子を表した抑揚のあるストロークといった特徴を持っています。
現在制作中の「濱明朝」
そしてもうひとつ、2009年から開発に取り組み現在制作中なのが、横浜をイメージした都市フォント「濱明朝」。
港の水平線やフェリーを表すなめらかなカーブをほどこした横画と、海上から望む建築群に見立てた力強い縦画が特徴のフォントです。
試作段階ながら、濱明朝は横浜の企業の商品開発やイベント時のポスター、お店のロゴタイプとしてなど、使われる機会が増えてきています。
現在制作中である濱明朝の開発費として、現在クラウドファンディングを受付けています。
フォントで都市を表現する
福岡のフォントベンダーFONTWORKSがつくった「筑紫書体」というフォントがあります。
これまでとは一線を画した特徴的な形状で、細部までこだわりがつめ込まれた筑紫シリーズは、デザイナーの中にもファンが多いフォントです。
都市の特徴をあらわす“都市フォント”という概念からつくられたわけではありませんが、福岡でつくられたフォントということで福岡の古い名称“筑紫”という名前を冠しています。
“筑紫”という名称を広く浸透させたフォントという意味では、福岡という都市のブランディングに一役買っているのかもしれません。
フォントという切り口から都市を表現するこの試み、今後も各地に広がっていくと面白いですね。
都市フォント
Type Projectが進める、フォントを通して都市の個性や魅力を具現化をはかるプロジェクト