文豪の人間性に触れる「行為の軌跡−活字の裏の世界−」
筆跡は書いた人の“人となり”を表し、筆圧の強さから力強さや自信を、紙に残された形跡からその文字が書かれた状況を想像することができます。
そんな沢山の情報を纏う「書く」という行為に注目した、こんな作品が発表されました。
独自の着眼点
筆跡を「行為の軌跡」、文字を身体の延長としてとらえ、針金で立体的に再現されたこの作品は、武蔵野美術大学の大学院生の卒業制作でした。
作者である荒井美波さんは、今年3月に武蔵野美術大学 大学院修士課程 視覚伝達デザインコースを卒業したばかり。
「木からできたブックカバー」で2011年にグッドデザイン賞を受賞、2012年に武蔵野美術大学卒業制作時にも優秀賞を受賞するなど、これまでも独自の発想を活かした作品が評価されてきています。
込められた思い
文字は思考の軌跡であり、「書く」という行為の産物であると考えている荒木さん。
しかし様々な技術の進歩により、表面的な情報である活字だけがひとり歩きし、行為によって生み出されたという背景が忘れられているのではないか、その「書く」という行為自体も失われつつあるのではないか、という思いから文字の育つ過程に着目し、今回のこの作品が生まれたのだそう。
筆跡を針金で再現
ヌメ革、カンヴァス、針金という素材を用い、筆跡や筆圧までも意識して再現したというこの作品は、1日で2行しか作れないというとても骨の折れる作業の元に制作されています。制作過程を綴ったコチラのサイトでは、壊れたペンチの写真や、実際の制作風景の動画もアップされています。
インクの溜まり具合や、力強い塗りつぶし線、直しの跡など、試行錯誤の形跡が残る直筆原稿からは、本に印刷された活字だけではわからない、文豪たちの原稿が出来上がるまでの苦労や作品の生み出し方、性格にまで想像を膨らませることができます。
そして直筆原稿を平面のままではなく、敢えて立体で表現することにより、さらに迫力や臨場感が生まれている気がします。
残念ながら現在作品の展示はされていませんが、活字の裏に隠された、直筆から感じられる人間性を立体的に表現した作品たちはコチラのサイトでご覧になれます。
改めて文豪たちの名作を読み返したくなりそうですね。
行為の軌跡−活字の裏の世界−
行為の軌跡である、文字の育つ様子を視覚化した作品