茶道の教えから学ぶWebディレクション

こんにちは、ディレクターの今泉です。ブランコに中途採用で入社してから、1年3カ月が過ぎました。ブランコにはデザイナーをはじめ、エンジニア、ディレクター…とクリエイティブに関わるメンバーが多く在籍していまして、そのメンバーでは毎週木曜日にクリエイティブ勉強会が組み込まれています。知見をためてスキルアップを図ったり、いま進行中のデザインや戦略のクオリティを上げていくための場なのですが、その時間を通して、ふと気がついたことがありました。

それは「デザインの真髄は、茶道の美学に通じている」ということです。Webディレクションと茶道は別の業界ですし、一見つながりがないように見えるのですが、物事の本質を捉えるという点で、大切なことが共通しているような気がします。

未熟な私の解釈によるものですので恐縮ですが、自分なりに「茶道から学ぶWebディレクション」というものをまとめてみたいと思います。私と同じように、ブランディング思考のWebディレクションの道を突き詰めたい方や、なにか新しいことにチャレンジしてみたい方の参考になれば嬉しいです。その前にすこし、茶道との距離感も綴ってみますので、ぜひお付き合いください。

 

ゆっくり、自分と向き合いながら

「茶道」。その言葉の響き自体が美しいと感じます。茶道教室にはじめて足を運んだのは30歳をすぎてからで、はじめは「和室での歩き方や、マナーをひと通り知っておきたい」という気持ちがありました。当時、取材やお打合せで作家さんのご自宅に伺うことも多かったのに、いつも和室での立ち居振る舞いに戸惑うことが多かったのです。

仕事の合間をぬって、茶道のお稽古にゆるゆる通わせてもらい、出張が続けばお休みしていました。結婚して、家事と5歳児の育児に追われる今も、リハビリと称して時々おじゃまする程度。道具商さんのお手伝いをする機会もありますが、お茶のことを人に教える立場にありません。そんな、「余白」がとても多い気がする茶道との距離感ですが、自分を心地よくリセットできる点が魅力です。

 

知るほどに深くなる世界

茶の湯の世界には、日本独自の美学性と哲学性が宿っていて、貴重な憩いと学びがたくさん用意されています。季節のお花はきれいですし、和菓子は美味しく、先生も優しい。ありとあらゆる「日本文化への扉」をもつ茶道は、知れば知るほど奥が深くなります。

スマートフォンを置いて、人と人が話しながら、お茶をいただく。シンプルなことなんですが、直接会うことにハードルを感じる昨今、茶道は豊かなコミュニケーションを体験できる場所なんだと改めて思いました。また、何かを知る・新しい場所や人と出会えるといった気持ち的な「動」の喜びがある一方、自分と対話するという「静」の部分も大きくて、人の心を浄化する作用もあるとみています。

 

理にかなった、一番美しい姿を魅せる

クリエイティブ制作と茶道の共通点として、最初に浮かんだのは「理にかなった美」でした。お茶席では、その時期の花が床の間にしつらえられていて、シュンシュンとお湯が沸く釜の音が聞こえてきます。

おもてなしのすべてを計画し、実行するのが「亭主」なのですが、お客様をお迎えした茶室にて、道具を静かに清める所作からスタートします。所作には、流派ごとに多くの約束事があり、それが「型(かた)」と呼ばれます。型はとても合理的に設計されていて、身体への負担や無駄な導線がまったくありません。茶道における所作の美は、あくまで自然体で、理にかなった美しさなのです。所作がきれいだと、亭主の動きを拝見している側にとって安心感が生まれますし、不思議とお茶室の空気がなごみます。型という、制約の中から生まれる美が価値を生むのでしょうか。

私たちが向き合うデザインの現場においても、同じことが言えるのではと思いました。手掛けたものが理にかなっていて、目に映るうえでも一番美しい姿となっているか。ディレクターとして、少しでもチームに良い影響を与えられるよう、目を肥やしていきたいと思います。

 

客人(ユーザー)に、伝えたいテーマを決める

Web制作の初動で行うことは、目的を確認する・課題を発見する・仮説をたてる。ざっくりですが、この3つが挙げられます。すべての業種業界に深い知見を持っている訳ではありませんので、クライアントさんへ事業について具体的なヒアリングを行ったり、時に顧客さんへのインタビューを実施したりして、少しずつ客観的な調査を重ねます。あぶりだすような気持ちで「強み」と「弱み」を洗い出し、目指すべき方向を見つけていき、テーマを設定します。このテーマが固まることで、いつ・誰に・どんなメッセージを届けるかが明確になってきます。

同様のプロセスは、茶道の世界でも出会ったことがありました。お茶会を催す際、亭主が最初に決めるのもテーマです。季節にまつわること、日本の節句、お招きする方に関すること、その時に自分が伝えたい気持ちなど…。例えば、紫陽花の花を用いて「せっかくの梅雨を楽しみましょう」という提案だったり、西王母(せいおうぼ)という椿の花を床の間に活けて「長寿」を願ったり。西王母は、孫悟空のお話にも出てくる中国古代の人物で、長寿の象徴なんです。

お茶会でのテーマも、いろんな趣向が考案できると思いますが、「テーマはこれですよ」と一方的に押しつけてしまう無粋はしません。掛け軸やお道具の組みあわせ、お菓子の意匠など全体の調和をもって、ふんわり伝えます。だから、招かれた側は「今日の趣旨はなんだろう」とワクワクとした気持ちで座につき、想像力を働かせるのです。

茶道においても、デザインの現場と同じく、本質をしっかりみて取捨選択をしていく「潔さ」と「美意識」を持ち合わせていないといけません。

 

お客様満足度向上(CS)を、さりげなく

お茶の最終目標は、「お客様に美味しい一服を点てること」。そして「お客様に、満ち足りた時間を過ごしていただくこと」。これはどの流派でも共通する考えです。形としてのお抹茶を点てるだけなら、誰でもできる。そこに心を込め、お客様が気持ちよく過ごせるよう配慮したり、よい働きをすること。大切なのは、相手の立場にたって考えるということでした。

このことは、私たちのデザイン・マーケティングの世界では「お客様満足度・顧客満足度」という用語に置き換えられるのでは…と考えます。お客様満足度・顧客満足度というワードは、1970年頃、アメリカでマーケティングの行き詰まりから、消費者へ向けた反応調査がもとになって創始されたそうです。それらを表す英語訳は、カスタマーサティスファクション(Customer Satisfaction)といい、頭文字をとって「CS」と略されるようになりました。

プロジェクトのテーマを決めたり、Webサイトのデザインや動きを検討することは、すべてユーザーのために行います。もちろん前提として、クライアントさんを良い方向に導くミッションは認識していますが、その先にいるのはひとりの顧客。ユーザー目線が欠かせません。「常にユーザー目線を忘れないように」。この言葉は、社内の勉強会で何度も耳にするフレーズです。何度も耳にしてしまうのは、顧客起点の芯をぶらさずに、最後まで制作をやり遂げることが実はとても難しいことだからです。

茶道と同様に、デザイン思考やディレクションスキルは一朝一夕では身につきません。でも諦めずに、小幅でいいから一歩ずつ進んでいけたらいいなと思います。
長々とした文章を最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。

 

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ブランコは「いかにユーザーに価値を届けるか」「どのようにお客様にご満足いただくか」を考えながら、さまざまな案件と向き合っているデザイン会社です。

定期的な勉強会も実施しており、社員全員がフラットに意見を言える環境です。仲間になってくれるディレクターやデザイナー、エンジニアも募集していますので、ご興味のある方はぜひご応募ください。
この記事を書かせていただくにあたり、お世話になっている茶道関係の方々に御礼申し上げます。

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