長く寄り添えるグッドデザインを目指すミントデザインズの服づくり

カラフルな色彩、独特のフォルム、質感にこだわったグラフィカルなテキスタイルなど、他にない独自の世界観を確立しているファッションブランド「mintdesigns(ミントデザインズ)」。

ブランド設立15年目を迎えるいま、デザイナーである勝井 北斗さん、八木 奈央さんのお2人に、ミントデザインズ誕生のきっかけ、デザインに対するお考えなどについてお話を伺いました。

2人でやるというバランスの良さ

―15年という長い期間一緒に組まれているお2人は、どのように出会われたのでしょうか。

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勝井 イギリスにあるデザインやアートを学ぶ学校で出会いました。ファッション学科でデザインをするクラスで一緒だったんです。

僕が途中でテキスタイルについても学びながらファッションをデザインする別のコースに移り、八木はデザインメインのパターンやソーイングに特化したコースだったので、お互いのファシリティーをうまく使いながら、よく一緒に作品をつくっては学校のコンペなどに出していました。コースを超えてファシリティーを使うのは、本当はダメだったんですけど。(笑)

八木 卒業した時に私も勝井もいずれは自分のブランドをやりたいという気持ちがありました。卒業後、勝井が先に日本に帰国していたんですが、ちょうど私が帰国したタイミングで、一緒にやらないかと勝井に誘われたんです。

最初は一緒にブランドを立ち上げるというよりは、1回ちょっと手伝ってみるという軽い感じでスタートして、そのまま続いていったという感じです。

お互い“こうじゃない”というものが一致していて、好きなものが違うので、一緒にやることで新たな発見があるというのも良いバランスなのかもしれません。

“プロダクトデザインとしての衣服”

―ブランド設立当初からドールをブランドのアイコンとして使われていますが、ドールにはどのような意味があるのでしょうか。

© mintdesigns

© mintdesigns

勝井 モチーフに意味を持たせているわけではないんです。洋服の柄にはドットや千鳥格子、ボーダー、チェックといった定番がありますよね。自分達の中の定番柄というかベーシックな柄をつくりたいと思って、たまたま落書きか何かを並べた時にドールの形になったんです。

八木 これはドットドールという柄なんですが、ミントデザインズにとってドット柄として使える柄がいいね、とドールをドット状に並べて使い始めました。

コレクションとしては2回目の最初のファッションショーの時にこの柄ができているんですが、1度つくった柄もそれきりで終わりではなく、定番的に使い続けていきたいという気持ちがあったので、ところどころで使用していた結果、周りからの反応も良くて自然とアイコンになりました。

―ミントデザインズのファンの方と一緒につくったアイコンなんですね。
服をつくる際のコンセプトとして「プロダクトデザインとしての衣服」を掲げられていますが、テキスタイルだけでみるとグラフィックデザインというのを強く感じます。洋服のデザインにおけるプロダクトデザインとグラフィックデザインの兼ね合いや関係性はどのようにお考えでしょうか。

八木 みなさんにテキスタイルのグラフィカルな面を注目して頂いているんですが、柄そのものの意味やグラフィックとしての造形の意味よりも、素材感や長い目で見たときにグッドデザインと思えるかどうかを重視しています。服よりも何よりも先に最初にデザインしたものが紙のボタンだった、というところにもそれは象徴的にあらわれていると思います。

© mintdesigns

© mintdesigns

勝井 柄や洋服のデザインには流行がありますよね。そういったものとは一線を画して、極端な話になりますが、フォーク、スプーン、椅子といったプロダクトやインダストリアルデザインにはあまり流行というものはない。日常の中にある身近なプロダクトと接する様に、自分達がデザインしたものに接してもらいたいという希望もこめてデザインをしています。

八木 あとは自分達の気持ちの面での戒めもあります。何かプロダクトを買うときは、この春夏に使うために買おうというスタンスではなく、もっと長いスパンで使うことを想定して買っていますよね。私たちのつくる服もそうでありたいと思っています。なので、“プロダクトデザインとしての衣服”というキーワードがあるんです。

―なぜ紙という素材を用いてボタンをつくろうと思われたのでしょうか。

勝井 服の備品としてボタンが好きで、アンティークのボタンを2人とも集めていたりしました。その頃からふざけてボタンを紙でつくったりしていたんですが、色々調べていく内にバルカナイズド・ファイバーというスーツケースにも使用されている特殊な紙にたどり着き、それを用いて実験的にボタンをつくったんです。

八木 紙のボタンをすごいこだわり抜いてつくったので、最初のコレクションではそれ以外のアイテムをとてもシンプルにしました。

シーチングという仮縫いの時に使う生地があるんですが、そのシーチングにプリントをして紙のボタンを付けるという、3つのシンプルな手法だけにしぼったのが最初のコレクションでした。

コレクションの核となるデザインボード

―ひとりでやる場合と違って、お2人でデザインをされていると意思疎通など難しい面もあるかと思うのですが、コレクションを完成させるまでどのようにして進められているのでしょうか。

勝井 今回の展示にも出しているんですが、デザインボードという白いボードを使ってコミュニケーションを取っています。デザインボードに自分達が思ったことや、インスピレーションの源となるイラスト、写真などを貼りだしていくんです。それが共有ツールとなって、お互い何を考えているのかを知るのに役立っています。

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八木 デザイン画は各々どんどん描いて、チェックは2人でやるというようにお互い自由にやっています。2人だけでやっているというよりはアシスタントがいたり、パタンナーがいたりとチームでやっているので、相談しながらデザインの輪を詰めていく感じで進めています。

徐々に具体的なデザイン画になったり、具体的な布が決まっていったりするので、最初とコレクションの直前ではボードの中身も全然変わっています。今回の展示では最終段階のものを一部出しています。

―3月14日に最新のコレクション、2016年秋冬のショーが終わったばかりということですが、今回のコレクションはいかがでしたか。

勝井 今回のコレクションは、自由に伸び伸びとデザインできたなという実感があります。

八木 ミントデザインズは色柄で表現することが多い分、秋冬の時にどういうスタンスでやるかというのを結構悩んでしまうこともあるんですが、今回はそこを振り切ってやっているので、柄と色に溢れたフェイクファーや、今まであまり使ったことのない合皮を使ってみたりと、新しい殻を破ったような感覚があります。

勝井 コートでも生地を切り替えにしたり、大胆に色や柄を見せたり、素材を組み合わせて結構遊んでできたなという実感があって、やってて楽しかったです。

八木 今回は少し強い女性をイメージして、デザイン的にも少し強い方向へ表現することができたので、また次のコレクションも楽しみです。

ファッションだけにとどまらないさまざまな活動

photo: yoshitsugu enomoto © mintdesigns

photo: yoshitsugu enomoto © mintdesigns

―ブランドを15年続けられているというのがすごいなと思うんですが、これまでを振り返ってどんな15年でしたでしょうか。

八木 あっという間すぎて15年経っているというのを信じたくないですね(笑)。

―年に2回コレクションをやっていると、本当にめまぐるしいですよね。

勝井 うちはファッションだけでなく他にもデザインをしているので、忙しいながらも合間に良い気分転換ができています。

もちろんバックグラウンドはファッションにあるんですが、他の分野に触れることで新たなデザインのインスピレーションソースを得たりもできていて、自分達にとってはすごく良い循環になっていますね。

八木 ファッションだけをやっていると、目線が偏って業界的になりすぎてしまうんです。視野が狭くなりすぎてしまうと行き詰まってしまうので、例えば今回のような展示であったり、ファッションとは全く違う分野のデザインのお仕事をすることで視界が広がって、自分達のいい栄養になっている気がします。

photo : yoshitsugu enomoto © mintdesigns

photo : yoshitsugu enomoto © mintdesigns

―今後挑戦してみたいことはありますか。

勝井 たくさんありますが、今は国内での活動が多いので、もっと広く海外の方にも見てもらいたいというのもありますし、洋服に限らず小さい子どもからご年配の方まで理解できるデザインをしてみたいとは思っています。

例えばインテリアや、壁紙、床、もっと広い意味でいえば公共物など、洋服以外でデザイン力を活かして何か還元できないかなと考えています。

リオにはモザイク柄のビーチがあったり、ベルリンのバスは座席のシートが迷彩柄になっていたり、国によってゴミ箱のデザインが全然違っていたり公共物って面白いんですよね。

トレンドももちろん意識はしていますが、環境を含めた上でのファッションというような違った切り口があるんじゃないかと考えています。そういった意味で、小さい子どもからご年配の方までうちのデザインに親しむことができるような公共物のデザインは今後してみたいですね。

―お2人のデザインされた公共物があれば街が明るく楽しくなりそうですね!今後のご活躍も楽しみにしております。本日はどうもありがとうございました!

インタビュー時もとても息が合っていたお2人。今年の8月には現在進行形のミントデザインズを見ることができる直営店がOPENするそうです。

ブランドの核となるデザインボードや、新たな殻を破った最新コレクションができるまでを辿ることができる展示、「ミントデザインズ展―MATERIAL DICTIONARY-」は4月17日(日)まで三菱地所アルティアムにて開催中です。

この機会をどうぞお見逃しなく!

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