鹿児島 睦さんの
デザイナー的視点からのものづくり

1月28日(土)〜3月12日(日)まで、福岡を拠点に国内外で活躍する陶芸家・アーティスト鹿児島 睦さんの展覧会が、天神にある三菱地所アルティアム太宰府天満宮宝物展の2ヶ所で開催されています。

今回インタビューでお邪魔したのは三菱地所アルティアムでの展示の設営中。なんと壁画を描きながら(!)鹿児島さんのものづくりに対するお考えや、大切にしていることについてお話を聞かせていただきました。

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“天職”だと思っていたサラリーマン時代

―鹿児島さんはどのような経緯で陶芸家・アーティストになられたのでしょうか。

鹿児島 父は完全なサラリーマンなんですが、祖父の代はものづくりをしていたので、家にものづくりの道具がたくさんあったんです。その道具が残されてしまうのはもったいないな、道具をちゃんと使えたらいいなと思い美術系の大学に進学し、卒業してから12年ほどインテリア系の企業に勤めていました。

そこではディスプレイ、営業、クレーム処理、MD(マーチャンダイザー)と幅広く仕事を担当して、ずっとサラリーマンをやり続けていたいと思うくらい仕事がすごく楽しかったので、天職だと思っていましたね。

―そうなんですね。そんな天職ともいえるサラリーマンを辞める決断に至ったのはなぜなのでしょうか。

鹿児島 色々な要因があるのですが、35歳になった時に辞めようと思ったんです。歳をとった時に、最終的にお茶碗でもつくっていたいなというのはずっと思っていたんですけども、私が会社に居続けては下のスタッフが偉くなれませんし、40歳や50歳になってからものづくりを始めても体力的に遅すぎるかなという懸念もあったので、35歳くらいでいまの仕事にシフトしてきました。

“絵付け”ではなく“デザイン”

―では完全に独学でものづくりをされていらっしゃるのでしょうか。

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鹿児島 独学というか、美術系の大学に入ってたので、そこでひと通り勉強したことを活かしてものづくりを始めました。

私の活動の軸となるのは陶芸なのですが、サラリーマン時代が長かったので、基本的にはものづくりもサラリーマン時代と同じサービス業だと思ってやっています。

―それはまた面白い考え方ですね。

鹿児島 私の仕事は、自分の描きたいことを描いたりつくりたいものをつくるといった“作品をつくる”ことではなくて、使ってくださる方・買ってくださる方たちが喜んでくださることが第一なので、そういう意味でサービス業だと思っています。

―なるほど、使ってくださる方を喜ばせる仕事なので、“サービス業”ということなのですね。鹿児島さんの描かれる絵には植物や動物のモチーフが多く登場していますが、モチーフ選びにも何かこだわりがあるのでしょうか。

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鹿児島 私自身植物や動物が好きということと、嫌いな方がいないという理由があります。プレートの中に描くものは、“絵付け”とか“絵を描く”という表現をしてしまいますが、あくまで絵ではなくて“デザイン”なんです。

作品ではなく、“楽しんでいただくための道具”をつくっているので、動物や植物といった誰でもが好きなニュートラルなもので構成していく。そこに私の主義主張、考えや訴えたいことは入れてはいけないと思っています。

いまの人達はみな忙しいし、色々なストレスも抱えていると思うので、お食事の時など私のつくった“道具”を使っていただく時は、ほっとして楽しんでもらいたいですね。

きっかけをつくるだけ

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―鹿児島さんの描かれる図案は、構図が独特だなと感じるんですが、描かれる際に気をつけていること、こだわっていることはあるのでしょうか。

鹿児島 絵を描くのではなく、あくまでも対象が楽しいものになるように空間を構成していくので、そういう意味でも植物は入れやすいんです。

自然界で植物はものすごい生存競争をしていて、太陽の陽をより多く浴びるために、少しでも空間があると葉っぱが伸びようとする、そこに光を受けようとしますよね。

植物には元々そういう性質があるので、限られた空間の中できっかけをつくると後は植物たちが勝手に展開していってくれてるイメージで描いています。ここの空間があいてるからきっと植物はここに葉を広げるに違いない、ここに茎を伸ばすに違いない、そうするだろうな植物だったらというような。

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―なるほど。だからこんなに伸びやかな線なんですね。いま描かれているこの壁画も下描きをすることなく、しかもお話をしながらさらさらと描かれていますが、植物たちに任せて自由に描いていたら下描きは必要ないんですね。

鹿児島 そうですね。下描きをするとそれを再現しようとして絵がつまらなくなるんです。お皿の絵付けもある意味空間を埋めていく仕事なので、壁に描く絵もそれと同じ感覚でやっています。

用途を限定しないための分解と再構築

―鹿児島さんの描かれる植物がすごく特徴的で、花の絵ひとつとっても、これは鹿児島さんが描かれたものだなというのがすぐわかるのですが、この花はここを強調して描きたいというような気をつけていることがあるのでしょうか。

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鹿児島 実は具体的な花は描いてないんです。例えばお皿に桜の花やチューリップを描いてしまうと、これは春のお皿ですね、じゃあ春にしか使えないねとなってしまいますよね。

季節に合わせて春のお皿を出そう、夏用のお皿に変えようとなるのは日本ならではなので、それがとても面白いなと思うんですが、そうやって用途を限定してほしくないと思っているので、季節や花の名前が特定されないように、花や葉っぱが特徴的な形のものはわざと分解して再構成して描いています。

ボタンや芍薬のように見えるけど葉っぱが違うからこの植物は何?というような質問をよくされるんですが、そういう人は春の器や夏の器という風に明確にして安心したいんですよね。だから、その質問には答えません(笑)。なんだかよくわからないですけど好きな時に使ってもらっていいんじゃないですか、と答えるようにしています。

―なるほど。分解して再構築しているからこそ、鹿児島さんが描かれた花だとひと目でわかるんですね。

スポーツに近い感覚

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―今回出された3冊の本の中の1冊「鹿児島睦の器の本」は、20人のコレクターさんを訪ねてつくられた作品集ですが、実際にご自身の器を使われている人と会って、話して、使い込まれた器を見るのはどんな感覚なのでしょうか。

鹿児島 それは楽しいですね。何を盛っているか、どんな食材を載せたのかという話を聞くのはとても楽しいです。あれを盛ったんだこれを盛ったんだと聞くと、見てみたい!食べてみたい!となるので(笑)、器がコミュニケーションツールになっています。

私のつくるものは作品と商品の中間で、買えないといけないものながら量産ができないので、どうしても値段が安くはありません。だからお金を使って買ってくださる方たちへ、感謝の気持ちをどうやってお返ししようかとよく考えます。

ものをつくっている人間ができるお返しというのは、値引きをすることでも、おまけを付けて差し上げることでもないんですよね。次にもっといいものをつくることが、お客さんに対してできる1番のお返しだと思っています。

私はスポーツはまったくダメなんですけども、その感覚はスポーツに近いかもしれないですね。買ってくださった方たちが次見た時に「なにこれ!前よりちょっと面白い!」と言ってくれて勝ちかな、という感じです。勝ち続けたいという気持ち、それは、お客さんに楽しみ続けてもらいたい、喜び続けてもらいたいということですね。

これからの活動と、展覧会の見どころ

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―陶芸だけでなく、活動の幅がどんどん広がっているように感じますが、今後挑戦してみたいことはありますか。

鹿児島 陶芸をベースとしてやっていることで、逆に色々な仕事にトライする機会をいただいています。例えば京都の唐紙ですとか久留米絣、手ぬぐいといった日本の伝統技術を使ったものをつくらせていただいて、土以外の素材に取り組ませていただくのが非常に楽しいです。

今後はもっと、例えばガラスですとか木工というような、さまざまな素材を用いたものと一緒に仕事させていただければうれしいですね。

―福岡で大掛かりな展覧会をされるのは初めてということですが、2ヶ所で開催されている展覧会の見どころを最後に教えていただけますでしょうか。

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鹿児島 今回三菱地所アルティアムでは「鹿児島睦の図案展」ということで平面を、太宰府天満宮では「鹿児島睦の造形展」ということで立体を見ていただく構成になっています。立体といっても、平面のものに厚みを持たせて立体にしているので、平面がそのまま立体になったようなところを楽しんでいただけると思います。

太宰府天満宮では、一般の人が立ち入るのは難しい曲水の宴を再現した会場の中を、写真を撮ったり自由に回遊していただけます。アルティアムの会場でも写真を自由に撮っていただけるほか、フォトブースも用意しています。

2つの展覧会ともに、使って楽しむ器と同じで、見に来ていただいて写真を撮って、積極的に参加して楽しんでいただけたら嬉しいですね。

―展覧会にもサービス精神が溢れていますね。壁画も無事完成して良かったです!本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

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ものづくりはサービス業であり、絵付けはデザイン、お客様との関係性はまるでスポーツの勝負のよう――そんな独自のお考えが展開され、とても興味深い話を聞くことができました。

鹿児島さんのものづくりを図案と造形の2つの視点で楽しめる2つの展覧会「#鹿児島睦展」は、3月12日(日)まで天神と太宰府天満宮の2ヶ所で開催中。アーティスト的な側面、デザイナー的な側面をバランス良く併せ持つ鹿児島さんの魅力を満喫されてみてくださいね。