クリエーションを心から楽しむKIGIのお2人に学ぶこと

息をするように作品を生み出す渡邉 良重さんと、検証を繰り返し緻密につくりあげていく植原 亮輔さん。

全くタイプの違う2人からなるKIGIが生み出す心地良い作品たちが並ぶ、西日本初の個展「KIGI EXHIBITION in FUKUOKA」が、福岡・天神イムズにあるギャラリー三菱地所アルティアムにて現在開催されています。

グラフィックデザインを軸に、広告、プロダクトデザイン、オリジナルショップの運営など、ひとつのジャンルにとどまることなく活躍の幅を広げ続けているKIGIのお2人に、デザインに対する考えやこだわりについてお話を伺いました。

きっかけは自然な流れ

―まずは、お2人が組まれたきっかけからお伺いさせていただけますでしょうか。

渡邉 以前在籍していたDRAFTという会社で、仙台に新しくオープンするパン屋さんとパンを中心としたレストランのお仕事に携わることになったんです。

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私がデザインを担当することになったのですが、ロゴだけでなく、ユニフォームや玄関マット、インビテーションに至るまでお店にまつわる色々なものをつくることになり、もうひとり一緒に誰か、となった時に植原が「はい!」と手を挙げたのが最初に2人で仕事をしたきっかけです。

ちょうどその少し前に、DRAFTが提案するオリジナルプロダクトブランドのD-BROSもスタートしていて、植原もD-BROSのメンバーとなり、その後も立て続けに一緒に仕事をして、その流れで独立していまに至ります。

植原 まぁ、流れですね(笑)。

―そうなんですね!仕事の相性が良くて絶対一緒にやりたい、というきっかけを勝手に想像していました。(笑)

植原 あまり2人でやることのストレスがないというか、むしろ2人でやることのメリットのほうが大きいんです。僕自身は自由にできないというストレスを少し感じていますが(笑)、それが2割だとしたら、残りの8割はメリットですね。

―すごくいいご関係なんですね。

タイプの違う2人

渡邉 時間の使い方や、時間に対する考え方が違うので、昔はそのことでよく喧嘩もしましたが(笑)。植原はメリハリが欲しいタイプで、私は淡々とずっと土日も含め会社にいてもいいタイプなんです。

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植原 僕は色々な場所に行って、美味しいものを食べたり、面白いものを見たり、実際に体験したいという欲が強いんです。また、男だからというのもあるかもしれませんが、付き合いや情報を広げていかないといけないという気持ちもあります。

反対に(渡邉)良重さんの場合は、極端に言うと、いつも同じものを食べていてもいいという感じなんです。その代わり高い質は求めるけど、同じでいいというような。

―時間の使い方がぜんぜん違うということは、仕事の進め方も違うのでしょうか。

D-BROSカレンダー(2015) R.Uehara

D-BROSカレンダー(2015) R.Uehara

植原 僕は仕事に対して、作品として成立しているかどうかを俯瞰して見るようにしていて、100点にするにはどうしたらいいかをすごく考えるタイプなんです。100点にならないと0点みたいなものなので、検証を繰り返してつくり上げていきます。

直感的につくっているわけではなく、いくつか試作をつくって検証しながら良い悪いを判断していくので、ひとつのものをつくり上げるまでに時間がかかるんです。

入稿した後も「ちょっと待った!」とデザインを変えたりするので(笑)。今回のチラシも、元々はこの上に銀色をのせるはずだったのですが、実は刷ってからデザインを変えたんです。

1回目が刷り上がって乾くのを待ってから2回目で銀を刷るんですが、乾きを待っている時の状態を見て、「これ銀いらない、ストップ!銀なし!」って変更しました(笑)。昔から、OKが出てから変えるのが好きなんです(笑)。

渡邉 やりすぎず、ちょうどいい感じにしたいんですよね。

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植原 今回の展示に合わせてつくったこの「KIGI_M」という作品集も、さもすごそうにつくると逆にださくなる気がするので、マガジンのようにして気軽に手に取りやすい体裁にしています。僕の狙いとしては、作品集がどんどん溜まっていって、最後にハードカバーでバンっと綴じようかと考えています。

渡邉 作品や仕事の写真をちゃんと撮るとてもいい機会にもなりました。

―この展示の期間中に作品集が3冊出るんですよね。

植原 今回出るのはそれぞれグラフィック、プライベートワーク、プロダクトという3種類の作品集なんですが、今後はそれ以外のクリエイションがあったり、様々な切り口の作品集があってもいいなと思っています。

2人での仕事の進め方

―お2人で一緒に仕事を進める際は、いつもどのようにされているのでしょうか。例えばここはこだわりたいけど、私はこう思うというような、意見が食い違う時などはありますか。

植原 最初にアイディアの方向性の打ち合わせをする時には、いつも一悶着というか一山ありますね(笑)。それを超えて、前提やアイディアを一度固めてしまえば、そこまでもめません。

もちろん多少の意見の食い違いはありますが、その場合は、どちらか意見が強い方、強烈にそれを良いと思っている方に合わせるようにしています。

結局「いいものをつくりたい」というのが前提にあって、そこに向かって努力をするだけです。

“練習”と“試合”

―「いいものをつくりたい」という思いを共有できているからこそ、その上に素敵なバランスが成り立っているんですね。
プライベートワークとクライアントワークで、考え方やスタンスの違いなどはありますか。

植原 プライベートワークとクライアントワークだけでなく、プロダクト、グラフィックそれぞれ違います。

何でもはじめはこんなものがあったらいいなとか、まずは想像の世界から話をするわけですが、仕事というのは多くの人に伝える、手にとってもらうといった条件が必ずあるので、実現できないこともたくさんありますよね。

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例えば、高すぎてぶつかる山がないほどの高い山の頂上でいくら「ヤッホー」といってもこだまは返って来ません。そこをどのくらい下山したらこだまが返ってくるのか、その下山具合を計るのがデザインの仕事だと思っています。

プライベートワークというのは、理想の想いを形にするとか、何をやっても良いとても自由なものですよね。野球で例えると、いわば“練習”みたいなものだと考えています。それに対して、社会を相手にしているプロダクトやグラフィックという仕事は本番の“試合”。

ただ、練習だからといって手を抜いているわけではなくて、ホームランをイメージして素振りをしてもいいわけなんです。

そこで忘れてはいけないのが、どちらも楽しいということ。クライアントワークには多くの人にものを届けたり、伝えたりする為にいろいろな制約があり、その制約を乗り越えるというのが結構楽しいし、難しい。そこに挑戦するというのも、またひとつの訓練でもあり、面白さでもあります。

グラフィックデザインとは

―クライアントワーク・プライベートワークどちらもとても大切ということですね。
お2人にとってのグラフィックデザインとはどういうものなのでしょうか。

植原 KIGIがつくるプロダクトはまず、こういうものをつくりたいというきっかけを自分で持っているわけですが、それに対してグラフィックは、よりクライアントとのコミュニケーションが深いものだと思っています。

シールで構成されたアートワーク《implosion←→explosion》(2015) R.Uehara

シールで構成されたアートワーク《implosion←→explosion》(2015) R.Uehara

作品づくりを木に例えると、木の根っこがいろいろな養分や水分を吸収して、ひとつの幹というコンセプトになり、地面から社会に出て枝にわかれ、実になってユーザーに届けていくというイメージなんです。

クライアントワークは、すでに木が生えて立っているところに僕たちが入っていくわけです。木の根っこの先がどこまであるのか、根っこが吸い上げようとしている養分や水分は何なのかを知るところからはじまり、どんな実ができているのかを観察して、どういう伝え方をしていくか考えることがグラフィックの仕事だと思っています。要するに木にのりうつるということですかね。憑依型というか(笑)。

絵本『ジャーニー』(2012) Y.Watanabe

絵本『ジャーニー』(2012) Y.Watanabe

―渡邉さんにとってのグラフィックデザインとはどういうものでしょうか。

渡邉 描くことと増やすこと、でしょうか。グラフィックに特定したことじゃなく、とにかくつくることが好きで、私にとっては仕事でも作品でもなんでも良くて何でもやりたいんです。とにかくつくることだけしていたいというような。

―常に生み出していたいということですね。

渡邉 ほかに何も求めていないんですよね。もちろん旅行に行きたいとか、美味しいものを食べに行きたいというのはあるんですが、そういったこともつくることに繋がったらいいなぁと思っています。

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私にはグラフィックもプロダクトも、プライベートワークも、どれも遠くないことで、とにかくつくる回数が増えていけばそれが楽しいんです。もちろん常に「わー楽しい!」と思ってるわけではないですが、結果的に楽しいので嫌にならないんです。

心がけているのは「サービス精神」

―なるほど。デザインをする上でこころがけていることや、大切にされていることはありますか?

植原 サービス精神は重要だと思います。グラフィックもプロダクトも、見てくれる人やクライアントに喜んでもらうということは大前提なので。

あと、僕はデザインをきっかけにいろいろな世界を見たいという気持ちがあるんです。例えば、ブランドをつくってみたり、お店をつくってみたりすることで、社会との関わり方が変わってきますよね。だから色々なことに挑戦するということを大切にしたいと思っています。

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今年の7月、東京の白金にオープンしたギャラリー&ショップ「OUR FAVOURITE SHOP」の近くに昔からある商店街があって、そこでこの間お祭りがあったんですが、僕たちもそれに参加して神輿をかついだんです。先日もお店の近所の方を呼んで“沖縄料理と落語のゆうべ”というイベントを開催したりもしました。

どれもデザイナーをやってるだけでは体験できないことなので、そういう経験ができるのがすごく面白いんですよ。

これから挑戦したいこと

―マガジンのような作品集を出されたり、自分でお店を運営されたりと、思いつく限りのクリエイティブをされている印象があるんですが、これからやってみたいことや挑戦してみたいことはありますか。

KIKOF(2014) R.Uehara&Y.Watanabe

KIKOF(2014) R.Uehara&Y.Watanabe

渡邉 まだまだありますが、まずはKIKOFやOUR FAVOURITE SHOP、CACUMAなど、今やっているそれぞれを伸ばしていきたいですね。

植原 僕はお店をもっと増やしたいですね。例えば、フランチャイズシステムを導入して、各地にお店を増やしたいというのもひとつの方法かもしれません。僕らよりお店の経営がうまい人達がやってくれるかもしれない、というのも狙いなんですが(笑)。

―お2人がフランチャイズをやりたいと意見表明したら、各地で手を挙げてくれる人が殺到しそうですね!
最後に今回の展示の見どころについてお伺いさせていただけますでしょうか。

植原 アルティアムもサテライト展示も、是非ゆっくりと時間をかけて見てもらいたいです。サテライト展示は、実際にお店を見て回って、それぞれのお店に合った展示の仕方をしているので、お店の空気を感じ取りながらゆっくりして頂き、スタンプラリーも楽しんで欲しいですね。全部回るとバッジがもらえます!

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渡邉 この作業マンみたいなバッジが!(笑)

―このポスターとリンクしているんですね!本日は楽しいお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました!