ピクトグラムは最小で最大のコミュニケーションデザイン
ピクトグラムという言葉は、ラテン語とギリシャ語から来ています。”Picto”は「描かれたもの」、”Gram”は「文字」などの意味です。すなわちピクトグラムとは絵文字と言い換えることもできます。
ピクトグラムとは、文字ではなく、図や記号で情報を伝える視覚的な言語です。交通標識やトイレのマークなど、私たちの日常生活に溶け込んでいます。絵文字やアイコンもピクトグラムの一種として、デジタルコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。国籍や年齢、文化の違いを超えて、直感的に理解できる強力なコミュニケーションツールとして情報をシンプルかつ効果的に伝えることができます。
ピクトグラムの成り立ち
1920年代には、オットー・ノイラートによってアイソタイプ(International System Of TYpographic Picture Education)が考案されました。これは現代のピクトグラムにつながる国際的な絵文字の試みの最初でした。
そして1964年の東京オリンピックでは外国人観光客への対応として、視覚記号であるピクトグラムが初めて導入されました。このプロジェクトは組織委員会の「シンボル部会」で開発され、美術評論家の勝見勝氏がリーダーを務め、彼のもとに、このオリンピックの大会エンブレムを手がけた亀倉雄策さん、世界的な芸術家である横尾忠則さん、無印良品やロフトのロゴをデザインした田中一光さんなど、日本を代表する11名のデザイナーが集められました。このメンバー構成は、当時の日本のドリームチームとも言えるものでした。
この部会では39種類のピクトグラムを制作し、その中には、日常生活でよく見かける「トイレ」や「レストラン」などのシンボルも含まれていました。デザイナーたちは各テーマに対してアイデアを出し合い、最終デザインは田中一光さんなどが取りまとめました。部会は、ピクトグラムの著作権を放棄する英断を行い、これによって、ピクトグラムが世界的な普及と発展に大いに貢献し、現代の視覚コミュニケーションにおける重要な基盤となりました。
この歴史的な背景と制作過程、参加デザイナーの才能と努力が、現代社会で広く用いられるピクトグラムの基盤を築いたのです。特に、若手の活躍とボランティアの精神、デザインの普遍性が、時代を超えた価値を生み出しました。
ピクトグラムの特徴
ピクトグラムは非言語コミュニケーションの一形態であり、視覚的な記号や図形を用いて情報を伝達する手段です。この非言語コミュニケーションの特性は、言語の壁を超えてコミュニケーションを取るための強力なツールとして、多岐にわたる分野で利用されています。
視覚的表現と非言語コミュニケーション
ピクトグラムは、文字や言葉を使わずに情報を伝える視覚的な言語です。その働きは交通標識、公共施設の案内、デジタルデバイスのアイコンなど幅広く、私たちの日常生活において非言語コミュニケーションがどれほど広く用いられているかを示しています。
直感的理解の力
ピクトグラムは、その形状やデザインが、非常に直感的に理解することができるようになってます。この非言語的な表現は、年齢、教育、文化の背景に関係なく、人々にすぐに意味を伝える能力を持っています。
多様な用途と普遍性
非言語コミュニケーションとしてのピクトグラムは、商業、教育、観光、医療など、多岐にわたる分野での応用が見られます。特に国際的なコンテキストでは、言語の違いを超えて共通の理解を促進する重要な役割を果たしています。
デザインとシンプリシティ
ピクトグラムのデザインは、シンプルでありながら効果的な非言語コミュニケーションを実現します。複雑な情報や指示も、視覚的な記号によって簡潔に表現することができるため、迅速かつ明確なコミュニケーションが可能です。
ピクトグラムプロジェクト
ピクトグラムの有用性が理解できたところで、いざ作ろうと思うと、シンプルであるがゆえに分かりやすく美しいピクトグラムを作るのは難しく時間もかかります。そんな方のために、私たちも利用させていただいている、便利なピクトグラムのプロジェクトをご紹介します。
Noun Project
Noun Projectは「We believe visual language has the power to change the world.(視覚言語は世界を変える力を持っている)」異なる文化や言語の背景を持つ人々とのコミュニケーションをというビジョンを掲げています。掲載されている膨大な数のピクトグラムの大半がCreative Commons(クリエイティブ・コモンズ)ラインセス下で無料で使用することもできます。もちろん、ロイヤリティフリーライセンスを購入することも可能です。サブスクリプションも月額3.33ドルと比較的安価でおすすめです。
多種多様のピクトグラムがストックされているため、使用するときは、アイコンセットという、同じスタイルのピクトグラムがセットになっているものや、同じ作者が作ったものを使うと、比較的統一感がでてコミュニケーションもスムーズになります。
Font Awesome
Font Awesomeはインターネット上で非常にメジャーなアイコンライブラリとツールキットのサービスで、多岐にわたる特徴を持っています。26,233のProアイコンと2,025の無料アイコンが提供されており、それらは68のカテゴリーに分類(2023.8.8現在)されています。新しいスタイルやテーマ性のアイコンも頻繁に追加されるため、豊富なアイコンコレクションが揃っています。
アイコンは8つの異なるスタイルで提供され、色、サイズ、アニメーションなどを容易に調整できるため、多様なスタイルとカスタマイズが可能です。新しいスタイル(例:Sharp Light)も追加されています。開発者にとっても便利で、JSフレームワーク、Webfont、SVGツールキット、公式APIなど、さまざまな開発環境との統合が容易に行えます。
Noun Projectと違って、基本的には同じスタイルのものが使われているので、特に悩むことなくスタイルを揃えることができる便利なサービスです。
EXPERIENCE JAPAN PICTOGRAMS
EXPERIENCE JAPAN PICTOGRAMSは、日本観光の魅力を深く伝えるためのピクトグラムプロジェクトです。このプロジェクトは、日本の文化や体験を一歩深く掘り下げ、シンプルで独自性のあるデザインで表現しています。企画・制作を担当する日本デザインセンターは、ピクトグラムを観光のインフラとして捉え、そのデザイン性を追求しています。すべてのピクトグラムは無償で公開され、商用利用も可能で、日本の観光体験を豊かにするための一助となることを願っています。
サイトには、東京スカイツリー、寿司、うなぎ、厳島神社、花火など、日本の文化や風物詩に関連するピクトグラムが掲載されています。それぞれのピクトグラムは、日本の特有の文化や習慣、マナーを楽しく、わかりやすく、身近に感じさせるようにデザインされています。観光に特化していますが、意外に使いやすいピクトグラムが無償で提供されているので、一度覗いてみてはいかがでしょうか。
非言語コミュニケーションの強力な手段
初めて訪れた国の交通機関で、案内看板のピクトグラムに救われた方も多いのではないでしょうか。福岡市ではその街の特徴から作られたシンボルマーク(ピクトグラム)が各駅に設定されています。住人が住んでいる場所に誇りを持つ(シビックプライド)手助けと、来訪者へのホスピタリティが、実現された好例です。(このブログの過去記事で紹介していますので詳しくは下記リンクからご覧ください)
福岡市営地下鉄のシンボルマークから福岡を知る
ピクトグラムは、非言語コミュニケーションの強力な手段として、現代社会において広く用いられています。視覚的で直感的な特性により、言葉の壁を超えて情報を伝える能力は、多岐にわたる用途での利用が見られます。また、各ピクトグラムプロジェクトを見ていくと、デザインで社会貢献を果たそうというプロジェクトが多いのも印象的でした。
最小のデザインで最大の効果を生み出すピクトグラムの力は、今後もさらなる発展と応用が期待され、さらには社会的に非常に重要な役割を担うデザインと言えるのではないでしょうか。