伝統を守りながらも700年愛され続ける伝統工芸「博多織」

博多人形や久留米絣などとともに、福岡を代表する伝統工芸の1つである「博多織」。
700年もの間伝統を受け継ぎながらも、今なお新たな視点で“愛される博多織”をご紹介します。

独自の技法

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絹糸や金糸、銀糸などの材料を用いて、細い経糸と太い緯糸を筬で強く打ち込み、柄を織り出すという技法が特徴の博多織。その始まりは、鎌倉時代にさかのぼります。

1235年、博多の商人である満田弥三右衛門が、宋(中国)に渡り、6年かけて織物の技術を修得した後、博多に戻り織物文化を広めました。
織、朱焼、箔焼、 そうめん、じゃこう丸という5つの製法のうち、織だけは家伝とし、独自の技法を加え、伝えてきたことで「博多織」という新しい織物が生まれました。

1885年の明治時代には機械織生産を開始したことで量産が可能になり、2002年に博多織と博多人形の2つの伝統文化が融合しました。

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両組合の共同研究で、10柄28色の金糸、銀糸の華やかなデザインの生地が織りあがり、それ以降「博多祇園山笠」では、山笠人形を彩る衣装に“博多織”が用いられるようになったそうです。

着物の帯以外にも、舞台の緞帳や力士の帯に用いられており、相撲の世界では、幕下以上にならないと博多織でつくった博多帯を締めることが許されないなど、“とても高価なモノ”であることがわかります。

博多のシンボル 献上柄

博多織には模様や織のちょっとした技法の違いなどから、「献上、平博多、間道、総浮、重ね織、錑り織、絵緯博多」という7品目があります。
その中でも最も上質な“献上”と言われる柄は、江戸時代に黒田長政が幕府への献上品に博多織を起用したことが由来だそうです。

4種類の模様から構成されている献上柄には、模様の1つ1つに意味を持ちます。

「独鈷」を用いた模様

「独鈷」を用いた模様

心をかきみだす欲望や妄念などの煩悩を打ち砕くための、「独鈷」という厄除けを意味する真言密教の仏具を用いた模様。

「華皿」の透かし模様

「華皿」の透かし模様

仏に花の散布を行う際に用いる、祝福や招福を意味する「華皿」という器の透かし模様。

この2つの模様の間には、両子持と中子持の2種類の縞があります。「両子持縞」には親が子を守る姿が、「中子持縞」には老いた親を子どもが支える姿が表されているそうです。

子に挟まれた「両子持縞」

子に挟まれた「両子持縞」

中に子を挟んだ「中子持縞」

中に子を挟んだ「中子持縞」

このように災厄から守り、幸せを呼び、親から子への愛情を織り込んでいる博多織だからこそ、700年も愛され続けているのだと感じました。

引用元:福岡市交通局 公式サイト

引用元:福岡市交通局 公式サイト

この献上柄は、福岡市営地下鉄博多駅のシンボルマークに取り入れられるなど、長年に渡り博多を代表する大きな存在となっています。

古式染色によって青・赤・紺・黄・紫の5色を用いたものは「五色献上」と呼ばれ、それぞれの色に意味を持っています。
シンボルマークに用いられている赤色には「礼」という意味があり、博多に足を運んでくれた方々への「感謝の気持ち」を伝えているように感じますね。

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ライフスタイルの一部へ

現在では「高価なイメージのある博多織を、より身近に感じてもらえるように」と、少しずつ博多織について見つめ直す活動が生まれています。

“昔ながら”を残しながら、現代に溶け込む着物文化を目指した「THE YARD」、古き良き伝統と新しい文化が融合する“文明開化”をテーマに雑貨や小物を扱う「倭物や カヤ」、東京に本社を構えながら福岡の博多織に注目した着物ブランド「awai」は、ブランドとしての活動の一部です。

引用元:THE YARD Facebookページ

引用元:THE YARD Facebookページ

これらのブランドは、博多織の上品で伝統的な柄などの特徴を生かしながら、伝統のみにとらわれない新たなオリジナルのアイテムを生み出しています。

博多発祥という物理的には身近な存在にも関わらず、博多織の模様1つ1つに意味があり、想いや愛情まで織り込んであることを初めて知りました。
長年愛され続ける伝統工芸は、それぞれの伝統を理解し受け継ぎながら新しい発想を加えることで、さまざまな時代を生き抜いて行くのだと思いました。
伝統を崩すことなく、なおかつ新しいものへと変換するのは簡単なことではありません。

それでも今の時代を生き、変化を遂げて行くことで、私たちのような博多織の伝統を知らなかった若者にも身近に感じられるアイテムがより増えると嬉しいですね。
博多織はこれからも福岡を代表する伝統工芸として愛されるべきものだと感じました。

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