人を中心に据えた心地良い「間」をデザインする、高須学さんのデザイン論
「シンプル、永く、美しく」をコンセプトに、福岡を拠点に国内外で活躍されているインテリア・プロダクトデザイナーの高須 学さん。
高須さんの手掛けるインテリアは、店舗と商業施設を扱った専門誌「商店建築」でも頻繁に取り上げられ、手掛けたソファは世界的なインテリアブランド「cassina ixc.」で取り扱われるなど、そのご活躍はとどまる所を知りません。
そんな高須さんに、デザインをする上で大切にされていること、これまでとこれからについてお話を伺いました。
多くを学んだバーテンダー時代
―高須さんは現在、インテリア・プロダクトデザイナーとしてご活躍されていらっしゃいますが、その道に進まれたきっかけは何だったのでしょうか。
高須 僕は昔から工業製品や車が好きだったので、車のデザインがしたいと福岡にある九州芸術工科大学(通称 芸工大)工業設計学科に入り、カースタイリングを専攻していました。
ただ芸工大はデザイン系やアート系の仕事をされている身内を持つ、いわゆる“サラブレット”な人が多かったので、入学と同時にデザインの勉強をスタートした僕は、周りとのギャップや自分の出来なさに焦りや悩みを持っていました。
大学3年生の時に車のデザインの道に進めるチャンスが巡ってきたのですが、当時トップ企業の中のトップデザイナーになる自信がなかったこともあり、100人や200人というたくさんの人が携わってつくる大きなものの中のデザイナーの1人になるよりも、1から10まで自分の手でつくれるようなものづくりの方向に進みたいと思うようになりました。
そこで車のデザインの道へは進まず、大学4年の時に方向転換をして、同じ工業設計学科の中でパブリックデザインの研究室を専攻しました。
高須 少し話は変わりますが、昔から人と会って話すことや色々な人が活躍している場を見ることも好きだったので、大学1年生の頃からアルバイトでバーテンダーをしていました。
そのお店は老舗のバーの系列店だったので、そこにいらっしゃるお客さんもスタッフもしっかりした素晴らしい方ばかりでした。そこで色々な方の価値観に触れることができ、人との接し方や話し方、自分の磨き方まで勉強させてもらいました。
大学卒業後はそのまま飲食の道に進むか迷いましたが、せっかくデザインがしたいと大学に入ったので、デザインの道で1度自分を試してみようと、当時アルバイト先のお店にお客さんで来ていたデザイナーの方に弟子入りしました。
“好きこそものの上手なれ”ではないですが、バーテンダー時代の経験があったので、デザイン業界に入って飲食店の設計をしたいと思ったんです。どんなお店にするのがいいのかを、お客さんの立場、お店の人の立場、どちらからも考えてつくれる設計者になりたいなと。それがこの業界に入ったきっかけですね。
スタンスの変化
―中洲にあるフレンチレストランのお店「L’eau Blanche」のデザインも手掛けられていましたよね。以前に高須さんがそのお店に椅子を納品している場面をお見かけしたことがあるのですが、いつも現場には通われていらっしゃるのでしょうか。
高須 現場にはよく足を運びます。1個1個つくられていく様を見るのが楽しいというのももちろんですが、結局僕らは机上の空論でしか物事をつくれないので、それを実際につくってくれる職人さんや現場の方々に、どれだけ自分の思いを伝えられるかでつくられるものの出来上がりに差が出てくると思うんです。現場にはなるべく足を運んで、出来るだけコミュニケーションをとりたいと思っています。それはつくってくれる方に対しても、オーナーさんに対しても同じです。
これまで福岡では店舗の仕事が多かったのですが、40歳を超えて徐々に仕事の内容が変わってきました。店舗の仕事でも、これまで関わってきた店舗よりも、よりお店の内容にも細部までこだわりの詰まった、落ち着いた空間の方が多くなってきています。
最近東京にもオフィスを開設したのですが、東京だと組織の大きい企業クライアントとの仕事が多いので、仕事のやり方は変わらないけれど、やる仕事の内容が変わってくるかもしれないですね。
―仕事の内容が変わることで、ご自身の中での心掛けるポイントやスタンスの変化はありますか。
高須 ありますね。30代の頃は勢いで仕事ができたり、嫌な仕事は断ったり、少々尖った感覚で自分のやりたいことを突き詰めてやっていました。そうしないと結局生き残れないと思っていたこともあるし、負けたら終わりだという気持ちがすごくありました。
もちろん今それが無くなったという訳ではないんですが、そこにプラスアルファして企業との付き合い方や、大きなプロジェクトの中で自分たちがどのような立ち位置をとるのがベストかを俯瞰して見るということが、これからどんどん必要になってくると感じています。昔は絶対下請けはしたくないと思っていたんですが、今は大きなプロジェクトを良くするためには、自分がプロジェクトのリーダーでなくても構わないと思うようになりましたね。
例えば大きなビルディングをつくるという時に、ゼロから僕が設計することは出来ませんので、設計は他の人に任せた中で、空間や家具だけ、もしくは家具プラスコーディネートをするというような、僕たちの名前は出なくとも良い仕事はたくさんあると思うんです。
高須 西鉄グランドホテルの仕事は、僕らの名前は出ていますが、東京で動いている大きなプロジェクトの中で、福岡のデザイナーとして、西鉄グランドホテル全体のデザインをディレクションするチームに参加しています。僕らが小さかった頃の西鉄グランドホテルのイメージに戻していくというか、派手じゃなくても、時間軸の永いしっかりとした良いものをつくっていきたいと思っています。
時間を操作したデザイン
―それはまさに、高須さんのデザインコンセプトである「シンプル、永く、美しく」ですね。
高須 そうなんです。そのコンセプトには“時間”がキーワードになっています。僕の好きなものやつくりたいものは、流行らないものというか流れて行かない、残って行くもので、「10年先のスタンダードをつくりたい」というコンセプトが実は裏にあるんです。
10年経っても古めかしくないものを考えて、時間を操作してものをつくっているので、場合によってはその逆もできるんです。1〜2年で瞬間的に花が咲き、散って終わっていくためにつくるもの、というのも意識的につくることができます。
高須 3年ほど前、「九州ちくご元気計画」というプロジェクトの1年限定のショールームデザインを担当したのですが、1年という短い期間を逆手に取って生竹だけでレイアウトを組み、竹林に入っていくようなイメージにしました。そうすることで、別の場所でイベントを行う際にも竹を持って行くことができ、1年後の撤収の際は竹を取り払えばいいという、「素材」「可変」「時間経過」の3つを軸に構成しました。
時間と場所を意識的に操作することで、空間デザインは結構コントロールができるんです。
―論理的に組み立ててデザインをされていらっしゃるんですね。
調べて、掘り下げて、最適解を求める
―最近専門学校での特任講師をされていらっしゃるということですが、学生にはどのようなことを伝えていらっしゃるのでしょうか。
高須 デザインは“最適解を求める”ということなので、結局はロジックが大切なんです。何が最適なのかはその時々で変わってくることもあるので、考えて掘り下げていかないといけません。
知らないことを掘り下げることはできないので、まず知ること、知らないことがあったら調べること、調べてその言葉の意味まで掘り下げていくことで別の見方ができてくる。そういった考える訓練、掘り下げる訓練をしないと、ただ表面のデザインだけで終わってしまうんですよね。
表面上はごく普通に見えても、「なるほど!」とうなるような“腑に落ちる”デザインはものすごくたくさんあるんです。掘り下げて、掘り下げて、理解して、掘り下げて…をずっと続けていくことで、初めて腑に落ちるデザインが出てくると思っています。
―その訓練は、ご自身が日頃からされていらっしゃることなんでしょうか。
高須 そうだと思います。だからこそ、流行のデザインよりも、掘り下げて納得できるデザインをつくりたいと思っています。
高須 cassina ixc.で取り扱いされている「LATO」というソファも、とっておきの新しい形をつくった訳ではなく、ソリをモチーフにした脚形状で女性でもレイアウト変更が容易にできる、という理にかなった形をデザインしただけなんです。無理のないピンポイントなデザインを施すことで、飽きのこない綺麗な形と評価してもらっています。
インテリアとプロダクトのバランス
―昨年、イタリアで開催される世界最大規模の家具見本市「ミラノサローネ」で「AXIS」というミニマルな椅子を発表されていらっしゃいましたが、ご自身の中で、プロダクトデザインとインテリアデザインにかける比重の変化はありますか。
高須 徐々にプロダクトの方を増やしたくて、意識的に増やしています。店舗は特にそうですが、空間というのはどんどんできては無くなっていくものですよね。
それが自分の中で消化しきれなくなってきて、空間であればなるべく永く続いて行く空間がつくりたくなるのと同時に、プロダクトは流行のものではなく10年後20年後に残っていくデザインをつくっていきたいと思っています。
―建築家のル・コルビュジエも、彼が建てた建物の中には無くなったものもありますが、デザインした家具は息が長く、今でも残っていますよね。プロダクトには時代を超える力がありますね。
しかし、プロダクトデザインはデザインの領域で1番難しいというイメージがあります。
高須 確かにプロダクトデザインは難しいです。専門のデザインの知識が無いとできないですね。僕はインダストリアルデザインを学んでいたので、空間デザインをしながらもいつかプロダクトデザインに戻りたいという思いがあったんです。
いつか自分がデザインしたプロダクトを使った空間をつくりたいと思っていたのですが、ここ数年、ようやくその動きができるようになってきました。
昔はプロジェクトの予算も少なかったので、自分が空間をデザインして、安くて良いデザインのプロダクトを探して使いました。その当時はそれで満足だったんですが、歳を重ねるにつれて、自分のつくった空間の中にあるそういったデザインのプロダクトを“ノイズ”に感じるというか、どの場所にでもある大量生産のプロダクトと、そのプロジェクトのためのオンリーワンのプロダクトとの力の差を感じるようになってきて、なるべく自分たちでつくりたいと思うようになりましたね。
インテリアデザインは手に近い部分から
―空間の中のプロダクトも自分で手掛けたいということが叶うようになってきて、今後叶えたいことや新たにやりたいことはありますか。
高須 今後は、より生活に近いプロダクトにどんどん挑戦していきたいですね。インテリアデザイナーになって最初に師匠から言われたのは、「手に触れる場所からちゃんと手間をかけていけ」ということでした。例えば店舗の仕事であれば、お店の器からすべて携わることができるとか、そういった“手に近い部分”のものからデザインができるようになればいいなと思います。
―人間を中心にしてその周りをデザインしていく、という「Human Centered Design」の考えですね。
高須 そうですね。しかしプロダクトだけをやっていても、今度は逆に空間との調和が取れなくなってくるので、インテリアとプロダクトを両輪で動かすというか、良いバランスでどちらもできれば一番いいですね。
あとは、福岡と東京、福岡と海外の橋渡し役をどんどんしていきたいです。東京の人や企業が福岡に出てきたい時や、九州でものづくりをやってる人や企業が東京や海外に出て行きたいという時にぼくを伝ってくれるような。その役割が出来るということが、今後自分の武器になるのかなと思っています。
いま興味があることをとことんやる
―では最後に、学生やこれから何者かになろうとしている人に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
高須 その質問をよく受けるのですが、案外言うことがないんですよね。自分もそうでしたが、その時代に何を言われても響かなかった気がします。(笑)
あえて言うとしたら、“いま面白い”と思うことをとことんやるのがいいのではないでしょうか。何でも中途半端に終わらせるのが多分一番良くないと思うんです。洋服が好きなら洋服でもいいし、ご飯が好きならご飯でもいいので、その道をぐーっと深く掘ったら何か出てきます。あ、違うと気付くこともあるかもしれません。
やるならとことんやって、掘り下げて、その道に詳しくなった時に次の道が見えてくると思います。
―目の前のこと、興味のあることにしっかりと向き合ってとことん取り組む。とても大切なことですね。本日は興味深いお話をありがとうございました。
自分の軸をしっかりと持ち、時には柔軟に形を変えながら確実に活動の幅を広げ続けている高須さん。
人と空間、人と時間、そして人と人の心地良い「間」を追求し続ける高須さんがどんな空間やプロダクトを生み出していくのか、今後のご活動からも目が離せません。
TGD タカスガクデザイン
インテリア・プロダクトデザイナー高須 学さんとインテリアデザイナー手島 紗夜さんのユニットによるデザイン事務所