貴重な原画で味わう、繊細で数学的な「安野光雅のふしぎな絵本展」

画家、絵本作家であり、かつて学校の先生もつとめるなど、様々な顔を持つ安野 光雅さんによる「安野光雅のふしぎな絵本展」が、7月9日(土)~8月28日(日)の期間、福岡・天神イムズ8Fにあるギャラリー三菱地所アルティアムにて開催されています。

同時開催

本展では、安野さんがこれまで手がけてきた絵本に登場する絵の中から厳選された、絵本作家となった初期の頃のふしぎやからくりを取り入れた62点もの“原画”が並んでいます。

『ふしぎなえ』1968年

『ふしぎなえ』1968年

同時期にB2Fイムズプラザで開催されている「安野光雅のふしぎな広場」では、多くの方の目に留まるような大きな絵や、絵本から飛び出したようなふしぎな空間を演出しているのに対し、ふしぎな絵本展では原画という、また違った視点で楽しめるような展示となっています。

作品に古き味わいを添えるために、絵を描く前に紙を染める工夫をしたりというような、独自の手法も見どころの1つで、印刷された絵本で見る絵とはまた違った、原画ならではの味を楽しむことができます。

数学的でふしぎな絵

デビュー作である絵本「ふしぎなえ」をはじめ、繊細なだけでなく、立体と平面を用いた数学的な考えも含み描かれる安野さんの作品は、考えても考えても“不思議”がたくさんです。

「どのくらいの時間をかけて描くんだろう?」と思うほどの繊細さや、原画でしか味わうことのできない水彩の鮮やかさが1つ1つの作品に感じられます。

『ふしぎなさーかす』1971年

『ふしぎなさーかす』1971年

騙し絵で知られるオランダの画家エッシャーの影響を受けたこと、そこに子どもの頃からの探究心に立体や数学的考えが加わったことで、いまにも動き出しそうな遊び心のある絵が描かれています。

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安野さんは1969年~1980年に販売されていた騙し絵や化学をテーマにした「数理科学」という雑誌で、39回も表紙を手がけ、今回の展示ではその一部が展示されています。

安野さんは幼い頃、「地球は丸い」ということを初めて知った際に、「信じられない!それだと宇宙に落ちてしまう!」と思ったそうです。その驚いた気持ちが大きく、「普段忘れがちな、子どもの頃の想像力を楽しんでほしい」といった思いが作風の一部となっているように感じました。

何歳になっても探究心を持つ安野さんは、子どもがそのまま大人になったような“おちゃめな方”のようですね。

ひとりひとりの世界観

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人それぞれの視点で楽しめるものが多い、安野さんの作品。今回の三菱地所アルティアムでは、その世界観を活かし、平面に描かれた文字を立体で再現したり、壁だけではなくあらゆる方向から作品を見ることができるよう展示台を用意したりと、さまざまな工夫がなされています。

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森林に動物がいくつも描かれた作品「もりのえほん」では、見る人によって見える動物が違ってきます。
幅広い年代でファンが多いと言われる通り、私も一気に安野さんの世界観にハマってしまいました。

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今年安野さんは90歳という大きな節目であり、島根県にある「津和野町立安野光雅美術館」は創立15周年を迎えたそうです。

安野光雅美術館の特別協力のもと開催されている今回の展示会をきっかけに、ぜひ夏休みを利用して、安野さんの故郷でもある島根県の美術館にも足を運んでみてはいかがでしょうか。

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