アニメのタイトルから学ぶ「タイポグラフィ」
こんにちは。デザイナーの中森です。
Webデザインをする上で避けては通れないもののひとつに、タイポグラフィがあります。とくにここ数年で流行したフラットデザインやミニマルデザインでは、タイポグラフィがとても重要な役割を担っています。
タイポグラフィと言っても難しそう、色々なことを覚えなくてはいけない…など、なんとなくハードルが高いと感じる人は多いかもしれません。私もそのひとりです。
そこでおすすめしたいのが、自分の好きなものとタイポグラフィを絡めて考えてみる、という方法です。
アニメ×タイポグラフィ
今回は、私がデザインする際に使用することの多い「リュウミン」と「A1明朝」を、私の大好きなアニメ作品と絡めてご紹介したいと思います。
どちらも有名な作品なので、アニメや映画が好きな方は、知っている方も多いかもしれません。
■言の葉の庭
梅雨の季節に日本庭園で出会った少年と女性のふれあいから、孤独と恋、成長と救済をテーマに描かれたアニメーション映画です。
物語の8割ほどが雨のシーンなのですが、雨と登場人物の揺れ動く心がリンクして描かれているので、まるで季節が移り変わるように、自然と物語に入り込める作品です。
タイトルには「リュウミン(モリサワ)」がベースに使われていて、揺れ動く登場人物たちの心を、文字の大小のバランスで表しています。 大小をつけることで生まれたリズムは、落ちてくる雨のリズムともマッチして、不安定な中にも、少しのポィティブさを感じる作りになっているように思います。
リュウミンは、縦画・横画の先端やウロコにやわらかみをもたせて、親しみやすい雰囲気になるよう作られているフォントです。物語のキーのひとつとして万葉集の詩が出てくるのですが、リュウミンは古典的な雰囲気にもぴったりです。
ちなみに、今回は縦書きのタイトルに使用されていますが、もちろん横書きにしてもラインがきれいにそろい、可読性も高いため、DTPでは文章の本文にもよく使用されています。
さらに、葉のエレメントを加えていることで、背景のメインビジュアルにもよく馴染んでいます。
『言の葉の庭』は、景色や雨、色彩、人の心の揺れ動きがとても丁寧に描かれたきれいな作品なので、興味のある方はぜひ、見てみてください。秦基博さんが歌う主題歌も、世界観にぴったりでとても素敵ですよ。
■あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない
秩父の自然の中で流れる、幼なじみの少年少女6人の物語です。
幼なじみの死、罪の意識、恋心、葛藤、絡まりあう人間関係など、アニメにしては少しテーマが重いようにも感じますが、それぞれが過去と向き合い、ぶつかり合いながら幼いころの友情を取り戻していく姿に、涙する大人が続出したという人気アニメです。
タイトルは「A1明朝(モリサワ)」をベースに作られています。A1明朝は、モリサワ最初期から長く愛されているオールドスタイルの明朝体で、線の交わるところに墨だまりがつくられているのが特徴です。
墨だまりは昔の写植特有の表現なので、レトロで柔らかなあたたかみを持たせたいときに活躍してくれます。 昔の思い出をたどりながらこじれた関係を修復していく、という作品の内容にぴったりなフォントだと思います。
物語の後日談を描いた劇場版では、さらに文字が細く繊細に調整されていて、登場人物たちが過去を乗り越え、少し大人になった雰囲気が感じられます。個人的には、劇場版の細いものの方が洗練された雰囲気が出ていて好きです。
「あの花」という名称で慕われたこの作品は、大人になるといつの間にか忘れてしまう気持ちを思い出させてくれるような、心がじんわりあたたかくなるアニメです。ぜひ、ハンカチを用意して見てみてください。
“好きこそものの上手なれ”
好きこそものの上手なれ、という言葉があるように、自分の好きなものだと、すっと頭に入ってくるものです。
私はタイポグラフィに苦手意識を持っていたのですが、アニメのタイトルと絡めて考えるようになってからは、少し楽しい気持ちで勉強できるようになりました。 アニメ以外にも、漫画や小説、映画のタイトルロゴも、最近は凝っているものが多いので、観察してみると面白いと思います。
これからタイポグラフィを学ぼうと思っている方や、苦手意識を持っている方がいたら、こんな勉強方法もあるんだなぁと思ってもらえると嬉しいです。
良いデザインのためにも、タイポグラフィを楽しく学んでいきたいですね。