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訳は正しいのに、なぜ読めない? Meta Ray-Ban Displayの翻訳機能とUX

訳は正しいのに、なぜ読めない? Meta Ray-Ban Displayの翻訳機能とUX

機能はきちんと動いているのに、使う人には動いていないように見える。そんなすれ違いは、どんな道具にも起こりえます。

レンズの中に小さな画面を備えた眼鏡、Meta Ray-Ban Display。その文字翻訳機能を担当したデザイナーのJenny Linさんは、開発の過程を公開しています。そこには、正しい答えを出すことと、それを使う人に届けることの間にある、細かな手間の話が詰まっていました。使う人にとっての分かりやすさや使い心地、つまりユーザー体験(UX)をめぐる話です。

正しい訳が、使う人に届かない

この機能は、メニューや看板など、目の前にある外国語の文字を訳して、レンズ内の画面に表示します。画面の広さは、切手ほどしかありません。

初期のユーザー調査や社内テストで分かったのは、表示を拡大したり動かしたりできることに気づかない人がいる、ということでした。そういう人は訳されたメニューの半分を見落とし、この機能はうまく動かないと思って、使うのをやめてしまったそうです。

見つけられない、動かせない、読めない。Linさんによると、どれも一つだけなら、小さな修正で済む問題でした。けれど3つが重なると、使う人は機能そのものを信用しなくなります。AIの訳がどれだけ正確でも、使う人の目に届かなければ伝わらないのです。

つくる側にとって、拡大や移動ができることは当たり前です。けれど初めて眼鏡をかけた人には、その操作があること自体が見えていません。

人が読む順番を、画面がたどる

そこで考えられたのが、使う人に操作をさせる前に、表示のほうが動く仕組みです。

翻訳を始めると、画面はまず、見えている中で一番大きな文字を拡大して映します。一番大きな文字は、おそらくタイトルだろうという考え方です。次へ進む操作をすると、人が読むのと同じ順番で次の文字へ移り、そのつど読みやすい大きさに整えます。

私たちがメニューを読むとき、まず店名や見出しに目が行き、そこから順に目を動かします。その自然な読み方を、画面の側が先回りしている。操作を覚えてもらうのではなく、操作がなくても読めるようにする方向へ、設計を変えたのです。

説明は、量よりタイミング

それで解決、とはなりませんでした。この眼鏡は、手首に着けたバンドを通して、指先をつまむ、手首をひねるといった手の動きで操作します。どれも初めて覚える動きです。発売後の調査でも、思うように使いこなせない人がいました。

Linさんが向き合ったのは、どこまで説明するかという問題です。説明が多すぎると邪魔になり、少なすぎると使い方が分からず手が止まってしまう。そこで、使う人が初めてその操作をしようとしている場面を見計らって、説明を出すようにしました。

最初にまとめて教えるのではなく、必要になった瞬間にだけ差し出す。説明を足すか減らすかではなく、いつ見せるかを設計しているのです。

通りの名前より、黄色い家

同じ眼鏡では、徒歩の道案内にも工夫が加わろうとしています。Metaは2026年9月、通りの名前ではなく目の前の景色を使う案内を発表しました。例として挙げられたのは、「3番通りを左」ではなく「黄色い家を左」という言い方です。

通りの名前で教わると、歩く人はまず標識を探します。黄色い家なら、目に入っているものをそのまま手がかりにできます。地図の上で正しいことと、歩く人がその場で使えることの間にある手間を、言葉の選び方で減らそうとしているわけです。なお、この案内がいつ、どの地域で使えるようになるかは、まだ公表されていません。

うまくいくほど、UXの工夫は見えなくなる

翻訳も道案内も、答えが正しいだけでは、使う人に届きません。答えを見つけ、読み、次の行動に移るまでには、小さな手間がいくつも残っています。しかもその手間は、つくる側からは見えにくいものです。

面白いのは、その手間を減らす工夫もまた、使う人からは見えにくいことです。メニューを読めた人は、画面が文字の順番を追ってくれたことを意識しません。黄色い家の角で曲がれた人も、標識を探さずに済んだことには気づかないでしょう。使う人が何も感じずに済んでいるとき、工夫はきちんと働いているのです。

手間はつくる側から見えにくく、工夫は使う側から見えにくい。その間で、使う人がまだ言葉にしていないつまずきを想像し、気づかれないまま取り除いていく。細かなUXを考える仕事には、そんな静かな優しさがあるのだと思います。

ふだん何も考えずに使えている道具があるなら、その裏では、誰かがひとつずつ手間を消しているのかもしれません。

参考資料

サムネイル画像出典:Meta公式ニュースルーム

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