フォントから歴史と知識を学ぶこと

こんにちは。アシスタントデザイナーの川端です。
日々の生活のなかにあたり前に存在している文字ですが、何気なく見る看板やポスターにはさまざまなフォントが使われています。
その中で私が興味を持ったA1明朝について紹介したいと思います。

A1明朝を知ったきっかけは

A1明朝を知ったきっかけは、映画「君の名は。」です。

©2016 『君の名は。』制作委員会(http://www.kiminona.com/)


初めてタイトルを見た時は、誠実さや上品さ、これまで見てきた広告と印象が違うように感じ、映画の世界観が現れているように思いました。
調べてみると古くから親しまれてきたフォントであることを知り、新しい発見があったため今回ご紹介することに致しました。
ほかに探してみると身近にこんなものがあります。
久世福商店オリジナルレシピのパスタソース。「柚子胡椒をきかせたアラビアータ」のフォントにA1明朝が使われており、上品な雰囲気が出ていますね。

引用:http://stcousair.jp/SHOP/fk00055.html

A1明朝の特徴

払いやカーブ、墨で書いた際に生じる「墨だまり」が再現されており、やわらかな印象と自然な温かみを感じるのが特徴です。このフォントにはなぜ墨だまりがあるのか、文字の歴史を振り返るとわかることがあります。

A1明朝の歴史を追う

日本語書体の歴史には大まかな流れがあります。
職人の手によって母型が作られていた時代から工業化に伴い、木版活字が金属活字へ。写真技術を使いフィルムに印字、パソコン一台で印刷ができる時代へと変化していきました。
まずその歴史について簡単に、木版活字、金属活字、写植機、DTPの順に追って簡単に説明していきたいと思います。
そもそも明朝体は、中国の宋体を元に開発された書体です。ヨーロッパ人が中国でキリスト教を広めるため、宋体活字の開発が続けられ製品化されたもので、職人の手によって彫刻が施された木材に墨を付け印字が行われていました。木版印刷は、中国から仏教や製紙技術とともに伝来したと言われ、その歴史は古く飛鳥時代に遡リます。

金属活字が日本へ

1896年長崎にウィリアム・ギャンブルを招き、日本へ金属活字が導入され、木版印刷から活版印刷へ。
金属活字に変わると、一度活字を作ってしまえばそれを何度も再利用して印刷物を作ることができるようになりました。その後、母型量産化のためベントン彫刻機が発明され、手書き文字をなぞるだけで母型を作成することが可能になり、生産性の向上に大きく貢献しました。しかし、まだ一つの文字ごとに母型を作る必要があったため文章を印字するのに時間がかかっていました。

発明したのは日本人

1924年に石井 茂吉と森沢 信夫により「写真植字機」が開発されます。写真植字は、文字を一字ずつ印画紙またはフィルムに焼き付け印字し、写真製版用の版下や焼き付け用のフィルム原板を作ることを言います。写真植字機を初めて実用化したのは、日本人だったんですね。
イギリス・アメリカでも研究・試作されていたのですが和文書体とは違い欧文書体は、一文字ごとのボディサイズが違うこともあり、それが開発を妨げる最大の要因だったようです。

引用:https://www.morisawa.co.jp/about/history/
手動植字最終系、使いやすさ、堅牢性など究極の万能型といえる手動写植機「MC-6型」

引用:https://www.morisawa.co.jp/about/history/
植字機ではこの文字盤を使い印字を行っていました。

当時、フォントサイズごとの母型を作成して文字を揃えるのに3日、印字に1日かかっていました。しかし、写真植字機が発明され一つの文字盤を使い印字することによって、作業時間の短縮、文字盤を変えることなくレンズを変えるだけでフォントサイズを変えることが可能になりました。

パーソナルコンピュータで印刷できる時代に

1987年、DTP(DeskTop Publishing)がアメリカから日本に上陸。
DTPという名所は「Adobe PageMaker」の販売開始にあたり、Aldus社の社長ポール・ブレイナードが1985年に提唱した言葉から来ています。パーソナルコンピュータの普及でDTPも一般化し、紙に書いた文字をスキャンしてデータがデジタル化されフォントとして使えるようになりました。

A1明朝の始まり

2005年に写真植字用明朝体「太明朝体A1」がパーソナルコンピュータ用のデジタルフォント「A1明朝」として復刻されました。写植元になったフォントからA1(13ポイント)がフォント名に使われています。写植機で印字を行うため、墨を使わないのに墨だまりが表現されていることを不思議に思った方もいるかと思います。
写真植字でも、活版印刷と似た現象が起こります。写植機は、カメラでフォルムに文字を印字します。その際、光源ランプが文字盤を通り、指定した文字サイズのレンズで印画紙に印字されるため、光を使用する以上現像された文字の輪郭は初めからぼけています。つまりわずかな「被り」がある状態。結果、縦画と横画の交差する部分は丸くなり、墨だまりのような滲みが表示されます。A1明朝では、この滲みを再現してやわらかな印象を表現しています。

引用:http://ryougetsu.net/ab_genri.html

気軽に使えるようになって嬉しい

歴史を追っていくと、それぞれのフォントに時代背景があり特徴が表現されていることがわかります。歴史の流れを理解することで、デザインの目的にあった書体を選びやすくなり、デザインで書体を使う際になぜこの書体にしたのか説得力が増します。
今回、書体に関する歴史を調べたことでなぜ墨だまりがあるのか、書体の意図が汲み取りやすくなりました。写植機がないと太明朝体A1が扱えなかった時代と比べて気軽にWebフォントとして使えるようになって嬉しいです。書体によって与える印象が変わって面白く思います。ポスターやWebサイトでのフォントの組み合わせと言ったような、相手に伝わりやすいデザインを作るためにも、タイポグラフィを楽しく学んでいきたいですね。

・参考文献

誠文堂新光社 日本語活字ものがたり 小宮山博史、月刊MdN 2018年11月号 明朝体を味わう。

・参考サイト

亮月製作所*書体のはなし・太明朝体A1技術と方法(2)写真植字 | 文字を組む方法 | 文字の手帖 | 株式会社モリサワ