ロンドンのキングス・クロス駅では、今でも多くの人がレンガの柱の前でたちどまります。 そこは9と3/4番線があると言われている場所。「カートを押して壁に飛び込めば、あの魔法の世界へ行けるのではないか。」「もしかしたら、私たちマグルには分からない、特別な入り口がどこかに隠されているのではないか。」そんなふうに期待をしてしまいます。
映画が終わり、本を閉じてもなお、私たちの心のどこかに「魔法界はどこかに実在しているはずだ。」という予感が消えないのはなぜでしょうか。J・K・ローリングが描いた作品は、単なる物語の枠を超えて、一つの大きな文化として私たちの現実に溶け込んでいます。
今回は、世界中を魅了し続けるハリー・ポッターの世界をひも解きながら、私たちを熱狂させるブランドには一体何が宿っているのか、一緒に考えてみたいと思います。

私たちを魔法界へ引きずり込む、徹底した物語設計
ハリー・ポッターの世界がこれほどまでにリアルに感じられる理由は、その圧倒的なまでの細かい設計にあります。
たとえば、魔法界で使われるお金について。1ガリオン(金貨)は17シックル(銀貨)で、1シックルは29クヌート(銅貨)。わざわざ計算しにくい単位にする必要はないはずですが、このちょっとした不便さこそが、魔法界が人間界とはちがう歴史を歩んできたというリアリティを与えてくれます。
また、魔法界のスポーツ、クィディッチの設定も驚くほど細かく描かれています。空飛ぶほうきに乗り、四つのボールと七人の選手で戦うこの競技には、点数を入れるチェイサー、ゴールを守るキーパー、暴れ球から選手を守るビーター、そして捕まえれば勝利を掴むことができる、くるみほどの小さな羽付きボールのスニッチを追いかけるシーカーがあります。さらに、細かいルールや700種類にも及ぶ反則が定められており、その歴史は作中にも登場する『クィディッチ今昔』という本に詳しく記されています。
さらにはプロリーグやワールドカップまで存在し、実は日本からも強豪チームが出場しているらしいのです。ちなみに、1473年の第1回ワールドカップでは、選手をスカンクに変身させる、ローブから100匹の吸血コウモリを放つといった奇想天外な反則もあったといいます。
ほかにも、まるで生きているように動く、カエルチョコレートに付属された有名魔法使いカードの人物紹介や、学校で使う教科書の隅っこに残った前の持ち主の落書き。魔法省という役所には、魔法不正使用取締局や、マグル製品不正使用取締局など、魔法界ならではの部署や複雑な役職が数多く存在します。
この細かい設定のなかには、読者がリアリティを感じるためのものだけでなく、物語のヒントも散りばめられているので、細かいところも目が離せません。

引用元:Harry Potter | Harry Potter 101: Quidditch part three | Wizarding World
組み分け帽子は、最高のユーザー体験
このようにハリー・ポッターの世界には、ファンを熱狂させる大きな仕掛けがたくさんあります。その中でも組み分け帽子は特に、誰もがハリー・ポッターの世界を体験できる最高の仕掛けです。

引用元:The Sorting Hat | Official Harry Potter Encyclopedia
ホグワーツ魔法魔術学校に入学した生徒は、まず、喋る魔法の帽子を被ります。帽子は生徒の頭の中を読み取り、その能力や性格、思想からふさわしい寮へと振り分けていきます。
勇気と大胆不敵さを尊ぶグリフィンドール
シンボルはライオン。もっとも勇敢な者が集まり、たとえ強大な権力であっても屈することなく、考えるよりも先に身体が動くような情熱を持っています。物語の主人公的な輝きを持つ寮です。
野心的で利口な者が集まるスリザリン
エンブレムはヘビ。常に一歩先を読み、偉大なことを成し遂げようとする気高さがあります。外見や評判も大切にし、自分の優しい面を簡単には見せないミステリアスな魅力を持った、実力主義の寮です。
知恵と知性を重んじるレイブンクロー
シンボルはワシ。優れた知識や機知を持つ聡明な生徒が集まります。すこし風変わりで個性的なこともいとわない、独創的なアイデアと分析を楽しむ探究者のための寮です。
誠実さと勤勉さを大切にするハッフルパフ
シンボルはアナグマ。もっとも信頼がおける、心優しいひとたちが集まります。自分の功績を誇示することなく、強い倫理観を持って一生懸命に物事に取り組む、もっとも謙虚で温かな寮です。

引用元:Harry Potter | Official home of Harry Potter, Hogwarts Sorting, and the Wizarding World
それぞれの寮には、はっきりとした個性と長い歴史があります。だからこそ、読者は「自分ならどの寮に入るだろうか」と想像せずにはいられません。 「自分は正義感が強いからグリフィンドールかな」「いや、物事を冷静に見るタイプだからレイブンクローかもしれない」。
このようなそれぞれの寮の細かい設計や、よりリアルに描かれる寮で生活する魅力的なキャラクターたちの活躍などによって、「自分もあの寮の談話室で暖炉にあたりながら友達と過ごしてみたい」と想像が膨らんでいく。自然と自分ごととして捉えられていくことで、ブランドへの強い共感を生みます。
良いブランドは、ただ便利な道具を売るのではなく、自分の居場所を見つけられるような場所を用意しています。私たちがお客さまと話すとき、まず「誰をどんな気持ちにさせたいか」を深く掘りさげるのは、こうした「参加できる楽しさ」も一緒に設計するためです。
細部へのこだわりが、愛されるブランドになる
私たちが日々、デザインの現場で大切にしているのも、この世界観の解像度をどこまで深められるかという挑戦です。たとえば、ロゴマークの色を決めるとき。単に、きれいな青を選ぶのではなく、そのブランドが持つ優しさや、誠実さが一番伝わる青はどれか。数百種類もある青の中から、たった一つの色を探し出します。また、Webサイトの文字の大きさや、行の間隔、写真の選び方ひとつにしても、「このブランドならどう振る舞うか」を考えながら整えていきます。
一見すると、誰も気づかないような、ほんのわずかな違いかもしれません。効率だけを考えれば、そこまで時間をかけなくても形にはなります。 それでも私たちがこだわるのは、そうした小さな積み重ねが、最終的にユーザーへ届く、ブランドらしさになると信じているからです。
「なんだか、このブランドは好きだな。」「細かいところまで大切にされている感じがする。」そうした言葉にはならないブランドらしさや安心感は、私たち作り手がどれだけその世界を深く想像し、こだわり抜いたかによって決まります。
私たちが目指すのは、ただの有名な名前をつくることではありません。ハリー・ポッターの世界のように、誰かの人生に深く根ざし、熱狂的に愛される唯一無二の実在する世界をつくることです。あなたのブランドには、まだ語られていない物語や、磨かれていないこだわりが眠っているはずです。そのこだわりを形にし、世界にたった一つのブランドを私たちと一緒に作ってみませんか。






