こんにちは。ディレクターの田中です。今回はシステムなどのプロダクトにおける、使いやすいだけではない「愛着」を生むUIデザインについてお話ししたいと思います。
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が生まれてから約20年。日本でも2018年に経済産業省のDXレポートをきっかけに、多くの企業で積極的に取り組まれることとなりました。DX化にともない、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)という言葉が聞かれるようになっています。
デジタルプロダクトがあふれる中、操作がスムーズであることや、機能が充実していることは、もはや「あたり前」になりつつあります。かつては「便利なツール」であるだけで選ばれていたサービスも、現在それだけではユーザーに選ばれ続けることが難しくなっています。
私たちは、単なる使いやすさ(ユーザビリティ)の向上だけでなく、その先にあるユーザーがそのプロダクトに抱く「愛着」をいかにして形にするかという課題に、デザインの現場で日々向きあっています。
パーソナライズが「自分のための場所」という感覚を育む
愛着を生む第一歩は、ユーザーに「これは自分のためのプロダクトだ」と感じてもらうことです。ここで重要なのがパーソナライズ性です。
例えば、多くの人が毎日使う音楽アプリを思い浮かべてみてください。ただ流行の曲を並べるのではなく、自分の視聴傾向に基づいたプレイリストが提案されたり、一年の終わりに「あなただけの音楽の歩み」がデータとして贈られたりしたとき、私たちはそのアプリに対して、他とは代えがたい親近感を覚えます。
私たちはデザインを考える際、ユーザーが自分好みに環境を整えられる「余白」の設計も同時に検討します。背景色を少し変えられる、よく使うボタンを並べ替えられる。こうした小さなカスタマイズの積み重ねが、プロダクトを「借り物のツール」から「自分の居場所」へと変えていくのです。

AppleMusicで贈られるあなたの一年
心を動かすマイクロインタラクションとフィードバック
愛着を決定づけるのは、実は目に見える大きなデザインよりも、操作の瞬間に感じる「手触り感」だったりします。これを、マイクロインタラクション(細かな相互作用)と呼んでいます。
例えば、タスクを完了してチェックを入れた瞬間に、アイコンが軽やかに跳ねる。お気に入りの登録ボタンを押したときに、小さなハートが弾ける。あるいは、読み込み中のアニメーションが少しユーモラスで、待っている時間さえも楽しく感じさせる。
こうした細かなフィードバックは、機能的にはなくても困らないものです。しかし、この「遊び心」や「おもてなしの心」が、無機質な画面に温かな血を通わせます。ユーザーが成功したときに一緒に喜び、迷ったときには優しく導く。こうした丁寧な反応の積み重ねが、プロダクトへの親しみを感じさせていくのです。

Asanaでタスクを完了したときに現れるキャラクター
汲み取ってもらえるという愛着。意思を持つUI(ジェネレーティブUI)
ここ1年で急速に普及した生成AI技術は、UIのあり方にも大きな変化をもたらしました。それが、ジェネレーティブUI(生成されるインターフェース)という考え方です。
これまでのアプリは、用意されたメニューの中からユーザーが機能を探しに行くのがあたり前でした。しかし最新のプロダクト事例では、ユーザーがやりたいことをチャットに入力したり、行動履歴が蓄積されたりすることで、「あなた、今これがしたいですよね?」と、AIが先回りして必要なボタンや情報を動的に生成して表示する動きが見られます。
例えば、「来週の会議の準備」と入力するだけで、カレンダー予約、資料作成のテンプレート、ToDoリストがセットになった画面がその場で生成されるというイメージです。 ユーザーにとって、自分の意図を言葉足らずでも汲み取ってくれるUIは、単なる道具を超えて「気のきくパートナー」のような存在になります。この「わかってくれている」という感覚こそが、これからの愛着の基本となるかもしれません。

Arcブラウザの検索意図にあわせて表示をカスタマイズされる機能
長く愛されるための「信頼」という基盤
最後にお伝えしたいのは、愛着は「信頼」という土台の上にしか成立しないということです。
どんなに見た目が美しく、ユニークな動きをするUIであっても、読み込みが遅かったり、予期せぬエラーで作業が消えてしまったりするプロダクトを愛することはできません。また、複雑すぎて使い方が分からないものも、しだいに距離を置かれてしまいます。
私たちが目指している研ぎ澄まされたシンプルさと、ユーザーに寄り添った機能から作り出されるデザインは、安定した使い心地を提供し続ける誠実な姿勢の上に成り立っています。
私たちがデザインを通して届けたいこと
ブランディングを担う会社として、私たちは単に画面を美しく飾ることはせず、企業の想いと、ユーザーの体験を「愛着」という強い糸で結びつけることが役割だと考えています。
使いやすいから「使い続けたい」へ。 便利を超えて「愛おしい」へ。デジタルな世界だからこそ、そこに宿る温度感を大切にして作られたプロダクトは、きっと誰かを少しだけ豊かにしていると信じています。





