「FITS 2015」レポート3 − サービスデザインの時代

企業コミュニケーション全体の支援から、専門性の高いエディトリアルデザインやUIデザインなどを幅広く行っている、株式会社コンセント 代表取締役の長谷川敦士さんによる「サービスデザインの時代」のセッションをレポートします。

サービスデザインの国際的機関である「Service Design Network(SDN)」の日本支部共同代表を務め、またSDNにより組織される「The Service Design Award」の審査員にも任命されるなど、サービスデザイン、人間中心設計、UX において最前線で活躍されている長谷川さん。日本を代表するサービスデザインの提言者として、エンジニア、デザイナー、そのほかさまざまな事業者が持つべき「これからの視点」について大変興味深いお話をされていました。

「FITS」にはそのタイトル通り、ITをはじめ、さまざまなビジネスに携わる人が参加されます。近年になって話題になることが増えているサービスデザインやデザイン思考に関するこのセッションもまた注目度の高い内容とあって、IT・デザイン界隈の多くの方々が集まりました。

サービスデザインとは?

サービスデザインとは一体どのようなものでしょうか。

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例えば、自動車に関する従来の価値観は、サイズが小さければ低価格、低性能、低品位、逆にサイズが大きければ高価格、高性能、高品位ということが一般的でした。しかし長谷川さんも実際にヨーロッパの街並でよく見かけたというメルセデスのマイクロコンパクトカー「smart」は「最小限のボディサイズで、最大限の安全性、快適性、環境適合性」をコンセプトとし、世界中でその品質や価値が認められています。

昨今ではカタログスペックと言われるような製品の性能と顧客の価値観が必ずしも比例しているとは限らず、使っている自分自身を想像してみたり、「あったら便利だ」とか「使いこなしたい」などといった人々の「ユーザー体験」によって「価値」が見い出され、そうした顧客の価値観に合わせて事業を再構築していくことこそがサービスデザインです。

またアメリカの調査会社フォレスター・リサーチによる、サービスデザインが普及している社会的背景についてのレポートが紹介され、次々にモノが生み出された20世紀初頭の「製造の時代」から「流通の時代」を経て、21世紀は「情報の時代」であり、さらには「顧客の時代」へ入っているとのこと。

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確かに、前述の自動車を例にとっても、以前は車を購入する際の決め手は自宅の近くにお店があるとかすぐ修理に対応してもらえるというようなことだったのに、最近の傾向は広告をよく目にするとか世間での評判などが判断基準になっていますよね。そういった基準に加え、今では自分の生活スタイルに合わせてカスタマイズできたり「所有」ではなく「利用」に対してお金を支払う、という考え方が大事な要素になってきています。

サービスデザイン思考の 5 原則

顧客価値+ビジネスの実現=サービスデザインという定義付けがされるなかで、ビジネスにおいて、モノの「交換価値」からサービス全体の「利用価値」へ考え方が移行しています。サービスデザイン思考には「ユーザー中心( User-centered )」「共創( Co-creative )」「インタラクションの連続性(Sequencing)」「物的証拠(Evidencing)」「全体的な視点(Holistic)」という5つの原則があります。

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サービスはユーザーを通して体験されるものであり、全てのステークホルダーがプロセスに関わり、相互に関係する活動の連続としてサービスを設計し、可視化し、環境全体をよく考慮する、ということがサービスデザインを行ううえでの原則です。

この原則に沿って、株式会社コンセントではプロジェクトを進行させるプロセスを3段階に分けて考えるそうです。

その3段階とは、まずはそのサービスがどのようなものなのか、どのようなサービスを提供したいのか、という事業戦略的な「サービスデザイン」。それから、どういうストーリーでサービスとユーザーが接点を作っていくのか、という「アクティビティデザイン」。そしてその接点でユーザーがどう操作するのか、という「インタラクションデザイン」です。

サービスデザインとアクティビティデザインを行うには、当然「ユーザー体験」による「顧客価値」の情報が必要なので、フィールドワークで人々の行動様式を調べる「エスノグラフィー調査」から始めます。

「弟子入り法」などとも呼ばれているこの手法は、ユーザー(調査の対象)の自宅を訪問し、インタビュー形式で生活の実態を見たり聞いたりして価値観や趣向などを抽出していくというもの。

こうして一つひとつ地道な作業を経て、丁寧にデザインとして落とし込んでいる訳ですね。

人々が求めるものとは?

このセッションを通して最も印象的だったことは以下の名言でした。

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「顧客は“ドリル”が欲しいのではなく、“ねじの穴”が欲しいのだ」。

マーケティングの世界で昔から知られている名言が、長谷川さんの口から紹介された瞬間、会場の参加者が一斉にメモを取りせわしない雰囲気になりました。

これはサービスデザインという概念がまだ存在していなかった 1968 年、アメリカのマーケティング学者 セオドア・レビットが発表した「マーケティング発想法」という書籍の中に出てくる言葉です。

人々はモノではなく、それを使う行動自体や結果を求めるという、サービスデザインの概念そのものがこの言葉には集約されているように思います。