“適材な線を選ぶ” 株式会社カジグラのロゴづくり

街のあちこちでよく見かけるロゴマーク。企業、お店、学校など様々なロゴは全て、誰かの「想い」をデザイナーがデザインしたものです。

今回は、福岡を拠点に数多くのロゴやグラフィックデザイン広告を手掛けられている株式会社カジグラの代表取締役である、ブランディングデザイナー 梶原 道生さんにロゴ制作に対する考え方や今後の活動の方向性など詳しいお話を伺いました。

メーカー勤務からデザイナーへ

―デザイナーになったきっかけを教えて頂けますか?

梶原 高校の電気科を卒業後、神奈川県の家電メーカーに就職したのですが、そこは山の中で牛を飼っているようなのどかなところだったんです。そこの学生寮で、6畳の部屋に東北出身で落語好きという自分と全く接点のない先輩と布団を並べて寝るのが辛くて辛くて。笑

その辛さを補うために、九州の友達としょっちゅう電話で話していて、デザイナー学校に入ってる友達に学校の様子を聞いたりしていたんです。

その頃は休日に東京でインテリアやグラフィックのデザインを見たりしていて、デザインの世界への憧れや興味があったので、会社を辞めてデザイン学校に行くために九州に戻ってきました。

生い立ちに遡ると、大分県の天ヶ瀬、高塚近くの山奥にあるぶどう農家に生まれて、ぶどうで大きくなりました。

―農業も作り手(クリエイター)ですよね。農業関連のブランディングを多く手掛けられている印象があるのですが、そういったルーツがあるからなんでしょうか?

梶原 そうかもしれません。まさか農業とデザインが繋がるとは思っていなかったのですが。

両親がぶどうや野菜を行商したり直売しているのを間近で見ていたので、物とお金を交換するというそのシンプルな光景が今の仕事にも繋がっている気がします。

デザイン学校には普通の高校生と比べて1年遅れて入ったのですが、その時知り合いにデザイン会社のアルバイトを紹介してもらったんです。そして昼間はデザイン会社で働き、夜は学校に通うという生活をしていました。

文字と向き合う

梶原 その頃はいわゆるグラフィックデザインや広告の仕事をしていて、B全とかのポスターを原寸で、手書きの版下でつくっていました。まだ写植の時代だったので、僕の仕事は来た写植を切り貼りしてキャッチコピーを組むという作業でした。それが文字と向き合う最初のきっかけでした。

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その時上司がタイポグラフィーとレタリングが大事だということをしきりに言っていて、会社に入った時にレタリングを強制的にやらされていました。ラフを描く時にレタリングをきちっと写植のように描いていると、デザインが良く見えるので有利だったんですよ。ラフスケッチをそのままカンプという完成予想図にできるレベルで描いていました。

当時クラブブームで、上司がパーティー好きの人だったので、クラブパーティーのフライヤーもよく作っていたんです。パーティーの企画のイメージ、ミュージシャンのイメージに合う文字をひたすら探していくという作業をしていたのですが、当時見ていたのがMONSENという欧文の書体見本帳でした。

その時に鍛えられた、全体のイメージとフォントのスタイルを合わせるという感覚が今でも非常に役に立ってます。

―それは多分ロゴをつくる際の考え方と一緒ですよね。その辺りからロゴづくりの楽しさを感じられていたのでしょうか?

梶原 ロゴというか文字ですね。その頃から文字の形状と感情の関係性にすごく興味を持っています。

一番最初につくったロゴは、19歳か20歳の頃に福岡のある商業施設のものを手掛けたんですが、実はそのロゴは今でも使われているんです。

場所や環境に馴染みながら、印象も記憶も残るというのが大事。ロゴをつくる上で僕が一番重要視していることは現場に合うということで、それはこれからもずっと変わらないと思います。

書体を選ぶようなアートディレクション

―その時は広告をメインにされていたのでしょうか?

梶原 そうです。僕はコピーライターがつくったコピーに絵をそえるということをずっとやってきたので、コピーが主役で絵はコピーを読ませるためのものという癖がずっとあるんです。だから常にコピーが主役で、コピーを立てながらどんな絵にしようかなと。

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言葉がないと、絵で説明しようとしすぎるんです。言葉があれば、絵はイコールでもプラスでもなくて掛け算になるんです。言葉と違う状況を絵で作ることでその言葉がグッと良くなったり、背景の絵と書体次第で言葉の意味を真逆に捉えさせることもできるんです。

例えば、直接的な言葉なのか気持ちを入れる言葉なのかで、ゴシック体にするか明朝体にするかが変わってきたり、写真にポンとした被写体があるものと、情緒的に全体の湿度がある写真とで全然選ぶ書体が違ってきます。

カメラマンやイラストレーターの方を選ぶ時もそうで、案件にピッタリ合うということを基準に誰にするか選んでいるんです。僕の中でアートディレクションの能力というのが、書体を選ぶ能力と同じになっているのかもしれません。

恥ずかしくない生き方を

―確かに梶原さんは色々な方と組まれているイメージがあります。

梶原 僕、メンバーを固定するという発想がないんですよ。それがいいのか悪いのかわからないですけど。だからずっとひとりぼっちなのかと。笑

絶対寂しがり屋の方が会社経営はうまくいくと思います。僕は全然寂しくないから、一緒に働いていた人たちに誕生日とかご褒美とか、全く気が利かないんですよ。営業だけでなく人付き合い自体が得意じゃない性分なので、そこに頼るしかないから、実績というか手掛けた仕事で評判を作るということは意識しています。

東京で仕事をしてる時に、カメラマンの方にこんなことを言われたんです。「今は前しか見えないかもしれないけど、そのうち年齢と共に横も後ろも見えるようになる」。それを僕なりに解釈すると、背中や足跡も周りから見られているから自分に正直に生きていきなさい、ということなのかなと。

実は、東京から戻った時に親父が交通事故で亡くなったんです。そこで僕は”お天道様にちゃんと堂々とする”というスイッチが入ったんです。親をなくすと逆に親がずっと心の中で生き続けるので、お天道様に恥ずかしい生き方をしないようにする、その感覚はすごく重要だと思っています。

―なるほど。日本人特有の美意識かもしれませんね。

ロゴは最小で最大の広告

―梶原さんにとってのロゴとはなんでしょうか?

梶原 ロゴは対象者や対象物そのものが凝縮されていると思っています。言葉と形の関係性により、視覚的に人種、言葉を超えて、一瞬で伝え記憶させるという効果があるんです。

今のこの情報がフラットな社会において、見る人の心を撃ち抜くための道具としてはもっとも優れていると思っています。元々広告屋なので、ロゴは最小で最大の広告と考えています。

デザインの仕事は作り手と使い手、企業とお客様のその関係性の“間(ま)”にいる、ということを常に意識するということが大事です。その“間(ま)”であるデザイナーの存在をなくしていくことで、デザインを通して伝えたいことが自然に伝わっていくと思っています。

“適材な線を選ぶ”ロゴづくり

―ロゴの魅力とはなんでしょうか?

梶原 言葉と形の関係性を線質でどうにでもコントロールできる、ということを知ってしまったんです。

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線質というのは、線のフォルムと線のラインの質のことで、同じ直線でも鉛筆、ボールペン、万年筆、筆など使う道具によって与える感情や印象が変わってきます。

その組み合わせが無限にあるので、お客様、依頼者がどうしたいのかということを詳しくヒアリングして、依頼者の思いを汲み取りながら、実際の現場での状況を把握しながら、適材な線を選び制作しています。

―ということは、アイディアの枯渇はないということでしょうか?

梶原 枯渇するということは考えられないです。お客様の過去・現在・未来や、本質をどうしたいのかを読み取りながら、そこに合う線を選び、本質を表現しています。

最近はお客様とその思いを形に汲み取ることにより集中できるように、意図的に情報をあまりインプットしないようにしています。

シェアオフィスカンパニー構想

―最後に、今後の活動の方向性についてお伺いさせて下さい。

梶原 福岡は個人事業主や社長が多いと思います。その社長が社会で勝負していくためには、クリエイティブチームがいたほうが良いと思うんです。

社長が自分のクリエイティブチームを持てるように、両者をどうマッチングさせていくかということが大切で、それにはシェアオフィスという形が良いのではないかと考えています。

外から見たらひとつのカンパニーなんだけど、中身は独立採算で皆自己完結で自由にやっている、コピーライター、デザイナー、カメラマン、イラストレーターなど、ひとつのブランディングが出来る人達の集団。仕事をとってきた人が責任者で後は全部フラットというシンプルな関係性で、福岡というか地方に合う形態じゃないかと思います。

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僕のいるこのY-SHAREというシェアオフィスは、最初のコンセプトに“場所のシェアより頭(アイディア)のシェア”を掲げていたんです。頭をシェアすることで本質を探す時間をいかに早くするか、というひとつの試みだったのですが、ここでは低コスト高パフォーマンスというのをしっかり実証できたんです。だからY-SHAREをちょっと大きくした、数十人規模のものがあるといいんじゃないかなと考えています。

行政が空いてるスペースを実験的に借り上げて、そこにクリエイティブなシェアオフィスが出来るのが理想です。

もっと言えば、都心から少し離れた、時間がゆっくり流れる環境の良い場所がいいと思うんです。人が自然に話したくなるような、ピクニック気分で鼻歌を唄いながら仕事や打ち合わせをする環境の中にクリエイターがいて、そこに困ってる企業さんが来て、癒されて帰っていくっていうのがいいですね。

デザインでサポートをする

―素敵なお考えですね!今後もロゴには集中していくのでしょうか?

梶原 そうですね。最小で最大の広告であるロゴを武器に、クライアントが戦い、自分だけの武器を見つけ、成功していって欲しいと思っています。成功していくっていうことはその恩恵を消費者が受けているということですから。

お天道様に堂々としていられるような、健全で正しい考えを持った人を正しいデザインでサポートして、より良い世の中にしていきたいっていうのが一番ですね。

―デザインで世の中を良くしていく、弊社も同じ考えです。本日は貴重なお話を有難うございました!

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