全国の“小商い”を盛り上げる、「&BASE」のきっかけづくり

GMOペパボ」の前身である「paperboy&co.(ペパボ)」に入社後、レンタルサーバー「ロリポップ!」の開発、EC支援事業「Color Me Shop! pro(現:カラーミーショップ)」の立ち上げ、ハンドメイド作品の展示販売サービス「minne」の統括を行うなど、Web業界に大きな影響を与えた数々のサービスに携わってこられた進 浩人さん。

現在は「BASE」というネットショップ作成サービスを提供するBASE株式会社の取締役COOとしてご活躍されている進さんに、これまでの歩みと、最近始まったばかりの全国の“小商い”を盛り上げるプロジェクト、「&BASE」についてお話を伺いました。

Web開発者から支社長へ

―paperboy&co.(ペパボ)に入社されたきっかけは何だったのでしょうか。

 大学3年生くらいの時に福岡にあるシステム会社にアルバイトで入ったのですが、そこで家入くん、持永くんという2人に出会い、みな同い年なので仲良くしていました。

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 家入くんがその会社を辞めて2001年に「マダメ企画」を立ち上げ、ひとりで「ロリポップ!レンタルサーバー」というサービスを始めました。サービスの成長と共に人手が足りなくなったので、持永くんが入り、その後「paperboy&co.」に社名を変更した2003年に僕が入りました。

僕はそこでPHPというスクリプト言語を使用したWeb開発をしていたのですが、2004年頭に、ロリポップのオプションとして、「Color Me Shop! mini(現:カラーミーショップ)」というネットショップ作成サービスをつくりました。

―かなり早い時期にサービスが誕生していた記憶があります。「Color Me Shop! mini」を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

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 元がレンタルサーバーの事業なので、色々な人からネットショップをつくって欲しいという声を頂いたことがきっかけでした。僕たちも今後のことを考えるとネットショップサービスを提供するのは必然だね、という話になり立ち上げた感じですね。

―2004年頃にネットショップ系のECサイトを無料で使えるというのは、他に無かった気がします。

 ロリポップのオプションではあるんですが、無料で提供しているところは他に無かったと思いますね。おかげでサービスを開始してすぐに数万ものショップができました。

その後、「Color Me Shop! pro」を福岡で立ち上げて、いよいよ本格的に事業化するということで東京にチームごと全部持っていきました。ある程度の規模になり安定成長できるようになったので、EC事業は他の人にお任せして、そのタイミングで僕が福岡に帰り、支社長となりました。

「つくり出すことがしたい」

―その後2013年に突然GMOペパボの福岡支社長を退任されて、Web業界に衝撃が走った、というわけですね。あの時はなぜ辞められたのでしょうか。

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 当時は特に身の振り方も決まっていなかったのですが(笑)、35歳という年齢と、ペパボに在籍して10年以上経っていたこともあり、自分の中でひとつの区切りでしたね。

例えば定年が65歳だとして、そこまでいるかというとイメージが出来なかったんです。そのため、65歳までのどこかで辞める時がくるんだろうなと漠然と考えていたんですが、そのタイミングが来たなという感じがありました。

―身の振り方も決まっていないまま辞めた、と聞くとかなり思い切った印象を受けますが、辞めた当時は何をされていたんですか。

 2、3ヶ月はふらふらとして、何もしていなかったですね(笑)。しいていうなら、料理をつくっていました。そんなに上手ではないですが、例えばその頃水炊きを学んで、鶏ガラからスープをとり途中で骨を叩いたり割ったりするような、本格的な料理をしていましたね。

結局はお店で食べたほうが安上がりだったりするんですが、つくるプロセスがまさにクリエイティブだなって。当時は料理の楽しさにハマっていました。

料理にハマりながら次に何をしようかと探していた時に、やっぱり「楽しくないと嫌だ」という気持ちがすごくありました。色々な人たちと一緒に楽しめるかどうかがポイントで、会社の大小は問わずまたつくり出すことをしたいなと。

BASEを選んだ理由

―BASEへの入社の決め手は「楽しそうだったから」でしょうか。

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 BASE入社を決めた1番の理由は、ペパボの初期の頃の空気に近かったというのが大きいですね。会社のカラーが近いこと、10人くらいの規模だったということ、タイミング的に面白そうだなと思ったといういくつかの要素がかみ合っていました。

空気は近いけれども、ペパボにいた当時は自分も若かったので一生懸命にやっていましたが、今は僕がちょっと年上で若い人たちと一緒にやっているので、ペパボの時とは見る場所や視点が違う気がして新鮮です。

BASEはどちらかと言うと若い会社なので、そういう意味では日々さまざまな問題も起きるし飽きないですね。

入社当時、経営陣は代表の鶴岡と僕だけだったので、マーケティングやCSといった現場のオペレーション、経理も僕が少し見ていたんですが、どんどん人を増やしていて、現在では60人以上のスタッフがいます。

―BASEはネットショップ登録も商品登録も無料ですが、どのように利益を得ているのでしょうか。

引用元:BASE 公式サイト

 商品が売れたら決済手数料が発生し、それが収益となります。例えばクレジットカードなら「売上金額の3.6%プラス40円」の手数料が発生します。商品が売れなければ、ずっと利用料はかかりません。

―固定費がかからない分、ショップオーナーにとってリスクのないシステムなんですね。
BASEはサービス開始当初、とてもシンプルなつくりやシステムだったイメージがあるのですが、今は色々なことがリッチになってきた気がします。

 機能はある程度増えてきて、昔無かったHTML編集などもできるようになったので、そういう意味ではだいぶ変わりましたね。

―全体を統括したモールはあるんでしょうか。

 スマホ向けのショッピングモールアプリをやっています。雑誌のイメージで、スタッフがキュレーションをして商品をピックアップしたり、特集を組んだりしています。この特集やキュレーションの裏側には30万のショップがあり、雑貨だけでなく野菜を売っているお店もあるし、本当に何でも売られていますね。

きっかけをつくる「&BASE」

―BASEに入社されて、今面白いと感じることはなんですか。

 今は、「&BASE」という新しく立ち上げたプロジェクトですね。

制作会社やその各地域でハブになっている方達と繋がっていきたいという、いわばネットワークづくりの部分を行うプロジェクトで、地域にBASEのオフィシャルパートナーを増やすということに特化しています。

僕たちがものづくりをしている方達と直接繋がるに越したことはないんですが、それができる相手は限られてしまったりしますよね。

例えば、農家の方たちを僕たちがいきなり訪れて、お店作ってください、と言っても難しいです。地場にいる制作会社の方なら僕たちの気持ちも農家の方の気持ち、両方の立場の気持ちが分かるので、間に入ってくれるパートナーを増やすことにより、ネットワーク化していきたいなと考えているのが&BASEです。

例えば、物が売れた時に、パートナーにも運営手数料として何%か収益が上がるようなwin-winの関係ができてくると良いかなと考えています。ネットワーク化することでそういった良い循環ができるようにしたいと思っています。

―なるほど。そうなると今までとターゲットとするペルソナやセグメントが変わってきますよね。

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 20代〜30代前半の人が多かったんですが、これまでと比べて、インターネットと距離があった人も含めより幅広くなります。BASEは、無料で簡単にお母さんでも使えるというのがコンセプトなので、インターネットに詳しくないけれどネットショップをやってみたいという方も対象です。実際の利用者は小学生~90歳のおばあちゃんまで、幅広い方に利用して頂いています。

小学生は、自分で描いたゲーム案を1000円くらいで売っていたりします。その売上でプレステ4を買いたいといっていて可愛いんですよね。

小学生がつくったゲーム案はうちのスタッフも買っていました。非常にユニークで笑みがこぼれていましたね(笑)。

―手作り感が溢れていますね(笑)。小学生からネットショップをしているとは、いまの時代の子どもたちは、まぎれもなく“デジタルネイティブ”ですね。

 そうですね。あと他には、BASEで野菜や果物を売っているお店もあります。シャインマスカットとか、味には問題がないけれど些細な傷が理由で市場に卸せないものを格安価格で販売したりしています。

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 商工会議所や、佐賀県の多久市もお店を出しています。行政がBASEを使ってお店を出しているって、なかなか面白いですよね。そんな風にローカルなお店も結構あるので、掘り下げがいがありますよ。

―行政が出店しているというのは驚きです。ただ、出店だけで終わらず「出店して商品が売れる」ところまで繋がるよう、マーケティングやそれに限らずブランディング全般は重要になりそうですね。

 そうですね。ネットショップをスタートする方の中には、出したら売れるという幻想を抱いている方もいるんですが、売る場所がネットであるというだけで、リアルのショップでの商売と変わらないんですよ。

だからそれぞれのお店や商品のストーリーのようなものが大事だと思っています。単純に安いだけでいいなら他のネット通販で十分でしょうし。

今回の&BASEというプロジェクトでは、BASEには30万ショップあるというノウハウを活かして、どういうものをどういう人達に売るのかといった本質的な話や、商品づくり、プロモーションのやり方についても、セミナーを通して伝えていきたいと思っています。

引用元:めがね米 公式サイト

引用元:めがね米 公式サイト

例えば、コシヒカリ発祥の地である福井県の鯖江で、眼鏡をかけた人たちだけでつくったお米を販売している「めがね米」というショップがあります。発売すると即完売するような人気商品で、Twitterでは2万件くらいリツイートされているんです。

ショップ運営で悩んでいるショップオーナーの方に、そういった事例を伝えてひとつの視点を示し、きっかけをつくっていくことが僕たちの役目かなと思っています。

少数派を大切にする

―面白そうですね!客観的な印象ですが、カラーミーショップのようにペパボの時は王道なアプローチで、BASEは一風変わった戦略をあえてとっているように感じます。

 今の世の中は、資本に集約される現状があるので、お金を持っている人たちがより儲ける流れがあると思います。それはそれで正しいんですが、資本もノウハウもなく地方にいる人たちにも、少しのきっかけを提供することによって、違う世界を見てほしいとか、インターネットを使うことによって色々な人と繋がって欲しいとか、今までにない新しい仕組みをつくっていきたいなと思っています。

―BASE代表の鶴岡さんも「通貨の流れを変えたい」というお話をよくされていますよね。民主主義でいうと、多数決だけでなく実は少数派の尊重という2つが揃ってこそなので、今のような資本が一極集中していくのも大事ですが、それだけじゃなく、多様化した価値観や生き方をカバーするためのアプローチも必要ですよね。

 マイノリティとの共同、ですよね。最終的に売上を伸ばしてもらうというところに繋がりはするんですが、僕たちのコンセプトとしては「お母さんでも使えるネットショップ」というのを掲げているので、&BASEを始めた経緯もそうなんですけれども、活動している個人を大切にするという考え方が自然な流れだと思っています。

―&BASEの今後の展開はどのようにお考えでしょうか。

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 今回、&BASEのイベントは福岡からスタートしましたが、他にもいくつかの場所で開催することが決まっています。

やはり地方にしかない、その人にしかつくれないものって絶対あるんです。多分デザインやWebにおいてもそうで「made in  Fukuoka」のような各地方発のものがもっとあって良いと思うし、そういうものはどんどん広げたいと思っています。

地方創生についても、行政や外部のアドバイザー主導になりすぎると、西洋医学のようにメスを入れ解決する流れになるんですが、対症療法になってその場限りで終わってしまうケースも多いと思うんです。

僕たちが目指すのはもっと東洋医学的なイメージで、その場にいる人たちが自助努力によって解決していける仕組みをつくりたいと考えています。&BASEの場合の主人公はその場所にいる人たちなので、僕たちはあくまできっかけづくりで、その場にいる人たちに自走してもらう…そんな取組みにしていきたいです。

&BASEのイベントを各地で行うことによって、ショップオーナーの方に新たな視点を知ってもらったり、色々なパートナー企業の方と繋がってもらうといったことがうまくできれば、それで充分かなと思っています。

―なるほど。何から何までお膳立てしてやってあげるのではなく、ショップオーナーの方に自信を持ってもらったり武器となる視点やノウハウを身につけるためのきっかけを提供する、というスタンスなんですね。

 そうなんですよ。

―すごく熱いストーリーがおありなんですね。スタートしたばかりの&BASEのこれからの展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました!

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日本全国の小商いを『もっと自由に、もっと広く、もっと早く』活性化させるためのきっかけづくりを行うプロジェクト、&BASE。

各地方ならではの魅力的な商品を、より多くの人に届けるきっかけをつくることで、売り手・買い手ともに良い循環が生まれます。これまでの一極集中ではない、日本全体が元気になる仕組みづくりとなりそうです。

&BASEのイベントは今後も各地で開催されるそうなので、気になる方は「&BASEオフィシャルブログ」や、BASEネットショップオーナーのための相談窓口「BASE U」のお知らせをチェックされてみてくださいね。

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